BL短編の小部屋

□溶け合うカラダ
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『ひな来いよ』


舜は笑ってちょっと骨張った手を俺に差し出すから、俺もその手を握り頷いた。

君となら、どこにでも行ける気がするんだ。
もうちょっと……出来るなら少しでも長く……君とこの夢に浸かっていたい―――









「気持ちいいなぁ〜な、ひなた?」
「そっかな?俺はちょっと寒いよ」


プールサイドに膝を抱えて座り見上げた先には、舜の裸体が月の光りの中に黒い固まりとして浮かんでいた。

180を越えた長身と、着痩せして見えて、だけど脱ぐと意外に滑らかに隆起した、堅い筋肉の均整の取れた体格。

見なくたって判る。
それら全部が、もうすっかり俺の中に根付いているから。

舜を毎夜体の再奥で受け入れて、俺達はいつも2人で駈け登る。

錆びたフェンスに掛けられた舜のジーンズが、プールサイドのコンクリートに細長い影を作っていた。


「じゃ。ちょっと泳いでくんね」
「シンゾーマヒで死んだりするなよ」


俺が言うと舜はカラカラと乾いた声で笑う。
ちょっとしゃがれてて低い舜の声は、2人きりの時にはほんの少し甘さを増すんだ。
紅茶に溶けた、角砂糖1個分の甘さ。

もちろん俺達がそんな関係だなんて事は、誰も知らない。

この世でたった2人だけの秘密。






バッシャーン……


大きな水飛沫を上げ、舜がプールへとダイブした。

弾き飛んだたくさんの水滴が、俺の髪やら着ていたTシャツやらズボンの膝小僧やらを濡らす。

バチャバチャと水と彼がぶつかる音が人気の無いプールに木霊して、何故だか鼻の奥がツンと痛んだ。

世界中に俺と舜の2人しかいない、孤独の痛みか?

例えば明日舜が死んだら、俺達の関係を知ってる者は、この世でたった1人……俺だけになってしまう。
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