BL短編の小部屋
□嘘
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ふぅーっと、静かに吹いただけで飛んでしまう綿毛の様に、頼りないから……
どうか、無理して笑わないで。
それは、泣く姿を見るより、無限に哀しい。
玄関で靴を脱ぎ、『ただいま』を告げる時間も惜しむくらいに、急いで階段を駆け上がる。
「アニキ!?」
そして自分の部屋より先に、あなたの元へ。
「京介……おかえり」
驚いた顔で、振り返ったあなたの異変をけして見逃さない様、マジマジと見つめた。
いつも、自分を粗末に扱うあなただから、俺は片時も離れていたくないんだ。
「なんで昼メシ食わなかった!?」
責める様な響きの口調に、ほんの一瞬ビクリと体を揺らした後で、あなたは俺ではないどこかを見つめ、口を開く。
「大丈夫だよ。一食抜いたくらいで……」
死んだりしない……?
消えてしまった言葉の続きは、確かめたくもない。
――昼メシ何食った?
日に何度も送るメールの13件目は、ついさっき送信したものだった。
「メール見てない?……腹空いてなかったから、食べなかっただけだよ」
「空いて無くても、食えよ。無理してでも食わなきゃだめだ」
「京介は心配性だな。夕飯は、昼の分も食べるから、それでいいだろ?」
読み掛けの本を閉じ、あなたはさも楽しそうな演技でもって、静かに笑う。
「ありがと、心配してくれて」
そうしてやっぱり、終わりかけのタンポポみたいに、頼りなく笑うんだ。
「夜は……ちゃんと食えよ」
俺はただ、どんどん冷めていく体温のまま呟いて、あなたの部屋を出た。
冷たくなった俺より、尚もあなたの体が冷えきってしまっている事を、絶望的にはっきりと俺は知っている。