BL短編の小部屋

□遼一&郁己 悩める少年
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黙り込んだまま、ずっと手元の文庫本に視線を落としっぱなしの郁己を、そっと隣りから盗み見る。

睫長いなぁ〜なんて。


「なあ、郁己?」


別に用なんかない。ただ声が聞きたくて呼び掛けただけだ。

なんせ郁己がうちに来てから交わした言葉はたったの2言。

ジュース飲むか?の問い掛けに対して答えた『うん』と部屋暑くない?への返事『平気』……だけだ。


「郁己?」
「あっ……うん、なぁに?」


一瞬ビクリと肩が揺れ、郁己が俺を見上げた。


「おまえ最近変だぞ」
「そう……かな?普通だよ」


郁己は曖昧に笑い、そしてまたはぐらかす様に本を読み始める。
郁己の長い睫が、小さく揺れているのを、俺は見逃さない。


「その本面白い?さっきから1ページも進んで無いけど」
「―――なっ……」


弾かれた様に顔を上げた郁己の手から本を取り上げ、これみよがしにパタンと閉じてやる。


「遼ちゃん……ナニすんだよっ」
「どーせ本なんか読んでねーくせに」
「………読んでた」


小さい声で文句を言って、目が合うと郁己はハッとし慌てて俺から視線を逸らす。


「おまえらしくないぞ。なんかあるんだったら言えって」
「………」
「郁己?」
「………」


視線が絡んだまま、気まずい時間だけが過ぎていく。
郁己の半開きの唇が一瞬キュッと結ばれ、やがてまた開く。


「………何も…ない」


アホ。どう見たって何もない筈ねーじゃん。

すっかり俯いたせいで、さらさらの髪が表情を隠して見えない。
だけど絞り出した郁己の声がいつもよりか細く震えていた事だけははっきりと判った。
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