BL短編の小部屋

□遼一&郁己『君にありがとう』
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カレーパンに、ピザパンに、特大チョコチップメロンパン……あとはえっと……小岩井コーヒー牛乳だ。

お使いを頼まれた子供の様に心の中で復唱しながら、2階の遼ちゃんの教室から1階にある売店へと向かった。

遼ちゃんの教室で一緒に昼食を摂るのが、ここ最近の日課になっていた。
上級生のクラスに入り込むのは最初勇気がいったけど、毎日続けていればさすがに馴れて、遼ちゃんのクラスの人達にもすっかり馴染んで来た今日この頃。

『お〜〜郁己ちん、いらっしゃ〜い』

俺が覗く度に廊下側前列の真田先輩はにこにこ笑って、頭を撫でてくれる。

真田先輩にそうされるのはすごく好き。

だってその度遼ちゃんがムッとして、俺の手を引っ張ってくれるから。
あぁ……愛されてるなぁ、なんて不謹慎にもワクワクしたりして。
自分の大好きな人がヤキモチ妬いてくれるんだよ?

思わず頬が弛んじゃうよね。




もうすっかり馴染みになった売店のおばさんと二三会話を交わし、茶色の紙袋片手に階段を昇ろうとしたその時、後ろから声を掛けられた。


「……星野くん」
「えっ?」


振り返り見たそこには、何度か廊下や合同授業で見た事のある女の子が立っていた。

男の割には小柄な俺より、更にだいぶ背の低い、目がクリっとした明るそうな可愛らしい子。
確か、隣りのクラスの子だ。


「あのぉ……話があるの。すぐ済むから、ちょっとだけ付き合ってくれない?」


肩にぶつかった髪を耳に引っ掛かけながら、その子がはにかんだ様に笑う。

つられて俺も愛想笑い。


「いいけど、なに?」
「ここじゃちょっと」


―――と連れて行かれたのは人気のない昇降口。

靴箱を背にその子は突っ立ったまま、一向に口を開こうとしない。


「話って何かな?」


早く遼ちゃんにパンを届けなきゃ、俺の頭の中はその事で一杯だった。


「お昼まだなんだ。ごめん話がないなら――」
「待って」


俺行くよ…全部告げる前に彼女から言われ、歩き出そうとしていた俺の動きは止まった。
彼女は小さく震える息を吐くと、静かに話し始めた。


「私ね、ずっと星野くんのことが好きだったの。星野くん……彼女いるの?」


不意を突いたその言葉に絶句してしまう。

彼氏ならいます……なんて当然だけど言える筈もなく、ただ黙って首を振るしかない。

すると、彼女は緊張が解けたのか薄く微笑んだ。
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