BL短編の小部屋

□海に沈む 《秘密/兄視点》
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『可愛い海。大好きな大好きな海。俺達ずっと一緒だよ』


………だって俺達は2人で1人なんだから。









「………でね、久志って子供みたいだろ?」


紅茶の入ったカップをゆるゆると揺らしながら、海は綺麗に笑った。

あいつに会ってから、海は変わった。

元々俺より幾分線は細かったけど、前より更に痩せ、時々思い詰めた表情をする様になった。
そのくせ、不意に見せる大人びた顔はハッとする程美しく、俺の知らない顔で笑ったりするんだ。


「あいつの話は聞きたくない」
「―――えっ?空……ごめん」


一瞬俺の言葉に驚いた顔をした海は、すぐに小さな声で呟いた。

伏せた睫がぼんやり影を作り、自分の言葉がひどく海を傷付けたと理解したけど、俺は謝ったりなんかしない。


「海はどうか知らないけど、俺はあいつが嫌いだから」
「うん……知ってる。もう久志の話はしないよ」
「ああ」


ぶっきらぼうに頷くと、躊躇いがちに窺う海の視線とぶつかった。


「空……ごめんね」
「もういいよ」
「ほんとに……ごめん」
「おまえしつこ過ぎ。そんなんじゃ、あいつに嫌われるぞ」
「そうだね」


お茶らけた響きを装った俺の言葉に、海はやっと安心した様に薄く微笑う。


「大好きだよ海」
「どうしたの?空」
「………」
「俺も大好きだよ」


幼い頃から何をするのも一緒だった俺達は、『好き』という言葉を気安く交わしてきた。
きっと今でも、海はあの頃と変わらない気持ちでそれを口にしている。
いつからだろう……俺の気持ちだけ変わってしまったのは。

紅茶を一口飲んで、海がふふっと楽しそうに笑った。


「小さい頃さぁ、よく空は俺にキスしてきたよねぇ。覚えてる?」
「なんだよ突然……」
「そういえば、最近はしなくなったね」
「当たり前だろ。高校生にもなって兄弟でキスしてるなんて、ヤバいって」
「そうだよね」


にこにこ笑う海。

おまえは俺がどんな気持ちでいるかなんて知らないだろ?
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