企画部屋

□怒りんぼうな彼 慎吾&烈編
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日曜って何でこんなにどこも混んでるんだろう。

昼を当に過ぎた小さなカフェは、中途半端な時間帯にも関わらず込み合っていた


奥の2人掛けのテーブルが空くとすぐすかさず座った俺と慎吾は、人混みに疲れ果
てトレーの上の遅めのブランチのベーグルに手を付ける気にはなれず、ちょっと
の間放心状態だった。


「……さすがに疲れたな」


ポケットから赤と白のパッケージのタバコを出し、慎吾が苦笑する。


「ったくぅ、ふざけんなだよ。Tシャツ1枚しか買ってないのにヘトヘトだ」
「おまえはまだいいよ、俺なんてタバコ1箱だぜ?タバコ買うのにどんだけモミク
チャにされなきゃなんねんだよ」


言葉の割りに慎吾の顔付きがどっか楽しそうに見えんのは俺の思い過ごしだろう
か?


『いーじゃん。せっかくの休みだ、デートしようぜ』

夕べ、明日は始まったばかりのバーゲンを覗きがてら出かけようと言い出した慎
吾は、日曜だから激混みだろうと渋る俺に畳み掛けるようにそう言った。

まるで最初から俺の反応を予測して用意してたみたいな口振りに、俺は思わず吹
き出した。

『しょーがねーなぁ……デート付き合ってやるよ』

憎まれ口を叩いた俺に、それでも慎吾はすっげー嬉しそうに笑ったんだ。











にしても、想像以上に人多すぎ。


「マジ疲れたー」
「まぁまぁ烈くん、俺の奢りのベーグルでも食って元気出しなさい」


奢りを強調し、ツンとこっちにトレーを寄越す慎吾…ベーグル1つで買収しようっ
てどんだけ安上がりな男だよ。

つっても、せっかくだから食うけど……。


目の前に座るプハーと煙りを美味そうに吐き出した男を睨み、おもいっきりベー
グルに噛みついた。


「美味いか?」


短くなったタバコを加えながらまるで保護者みたいに問われ、俺は素直に頷く。

考えたら朝メシ食ってないし……


「そっか美味いか」


俺の返事を聞き満足そうに頷くと、慎吾はタバコを揉み消す。

そのままヤツも食い始めるのかと思いきや、アイスコーヒーを1口飲んだきりこっ
ちを見ている。


「……あんた食わねーのかよ。チンタラしてんなら俺が食っちゃうぞ」
「いーよ」


って冗談で言ったつもりなのに、あっさりそう言いった慎吾に自分の皿を差し出
され、俺はなんか気まずい気分になる。

……冗談の通じねーヤツ。

俺とは対照的に悠然と構える慎吾の視線にくすぐたい様なソワソワ落ち着かない
様な居心地の悪さを感じ、そんな思いを悟られないよう俺は食べ掛けのベーグル
を口一杯頬張った。


「俺さぁ……」


慎吾がヤケに神妙な口調で呟いたから、ベーグル片手に俺は視線だけ上げる。


「おまえが食ってるとこ見んの昔からすげー好きなんだ。
おまえ食ってる時幸せそうな顔すんじゃん?それ見てるとさ、こっちまで楽しく
なる」


ニッと笑った慎吾はいつものお人好しな顔とはちょっと違って男前に見えた。


バーカ。
昔の事なんて俺は覚えてねーのに。

俺が全く覚えていない昔の俺の話を、当たり前のようにする慎吾。

その顔はいつだって幸せそうで、でもどっか痛々しい。

あー…
こいつは本当に俺のことを愛してくれていたんだなって、だからバカでひねくれ
者の俺にでも分かるんだ。


俺の知らない過去の俺は、どんなふうにこいつに愛され、どんなふうにこいつを
愛してたんだろう?


そんな事を思う度、心臓がザワザワする。
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