BL短編の小部屋
□篭の鳥
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「俺ORANGE RANGE!次おまえ入れろよ」
次はおまえと振られ、俺は手元の歌本に目を落とす。
適当に開かれた頁を、目線だけが何度も往復するけど、正直唄う気にはなれない。
壁の時計に目を凝らすと、18時を回った処だった。
――絶対まだ仕事中だ……
俺は、彼の仕事の事を殆ど知らない。
高校生の自分が聞いても判らないっていうのもあるし、あっちからも話さないから、会社名と大まかな仕事内容くらいはなんと無く把握している物の、それ以外の事は全く知らない。
――何かあったら、電話するよ……
つまり何も無ければ電話はしない、そう言われたも同然で……ましてこっちから連絡なんて、出来る筈もない。
『会いたい』たった一言を伝える為の電話すら、自由に掛けられ無いのは、余裕のない自分を晒す訳にはいかないから。
追えば追うだけ、俺への興味は薄れ、投げ捨てられるのも早まるだけ。
「……おいっ!おい、圭!?」
テレビのボリュームを上げる様に、俺を呼ぶ声が徐々に聞こえてきた。
「えっ?……何か言った?」
「何か言った?じゃねーよ。何ボーッとしてんの?おまえ最近変だぞ!」
「……悪い」
笑って誤魔化そうとした俺を、クラスメートの堤がリモコンを押し付けながら、ジーッと覗き込む。
「おまえ痩せたろ?」
耳打ちされた言葉に絶句した。
堤にすら気付かれてしまうくらい、そんなにやつれて見えるのか。
「最近昼も残してるみたいだし……俺で良かったら、相談のんぞ」
「……どーも」
まさか、15も年上の、しかも男に恋してて、最近忙しくて彼が会ってくれない……なんて口が裂けても言えないから、俺は唇だけを歪め笑って返す。
「無理すんなよ」