BL短編の小部屋
□あなたに誓う。
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違います……
そう言いたくても言えないのは、彼の見透かす様な目が怖いからなのか……それとも、否定する事で彼に抱いて貰えなくなる事が怖いのか……
俺が心のどこかで、彼を望んでいたのは本心だった。
「俺は……後からで……」
「そっか?判った」
成瀬さんは少し不満気に笑ってから、すぐにリビングを出て行った。
遠くの方からシャワーの音が聞こえる気がするけど、もしかしたら気のせいなのかもしれない。
俺は何を期待してるんだ……
彼の言う通り、もう1度抱いて欲しくて来たものの、例えメチャクチャに貫かれ様と、そうされて得るものなんか何一つない。
それでも後悔しない自信はあった。
「お待たせ」
不意にした声に見上げると、裸の上半身にさっきまで履いていたジーンズを引っ掛けただけの成瀬さんが立っていた。
厚い胸板は形良く隆起して、服の上から見る時以上、実際は逞しく鍛えられているのが判る。
「なんだよ、俺の体見んの、初めてって訳じゃねーだろ」
「あ……すみません」
「別に責めた訳じゃねーから。おまえもビール飲む?」
「俺はいいです」
「そっ?じゃ早くシャワー浴びて来いよ」
成瀬さんに促され、風呂場へと向かった。
一緒に暮らす、って事は、共有する日常があちこちにばらまかれ、相手が不在の時ですら、聖香ちゃんの存在が垣間見えるって事なんだ。
お揃いの歯ブラシ…
色違いのバスタオル…
彼女の化粧水…
さっきみたいに、成瀬さんは彼女を風呂に誘ったりするのだろうか?
下らない嫉妬が、俺の胸を突き刺していた。
シャワーを浴び、さっきまで着てた服を身に着ける。
リビングのドアの前で、携帯をマナーモードに切り換えてから中に入ると、成瀬さんはソファに座り、1人ビールを飲んでいた。