BL短編の小部屋

□溶け合うカラダ
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抱き合って、数え切れない程のキスを交わした事も、髪をそっと撫でてくれた時の煙草の匂いのする彼の指先の感触も、ふざけて朝方伸びた髭を、ジリジリと俺の顔に擦り付けた時の、子供みたいな舜の笑顔も………俺1人の胸にしかなくなってしまうんだ。

俺は確かに舜に愛されていた……
そう何度も言い聞かせ、その先を1人きりで過ごしていかなくちゃならない。


「しゅんっ!!」


魚のように悠々とプールをクロールで駆け巡る舜に、俺は大声で呼び掛けた。


「しゅーんっ!!」


君が気付いてくれるまで、何度だって繰り返すよ。
俺を1人にしないで。


「しゅーんっ!!」


3度目の呼び掛けに、舜は泳ぐのをやめた。

ゆったりと振り向いた舜は、スローモーションのような意地悪さで、のろのろとこっちへやって来る。


「舜……」


プールの縁に駆け寄った俺に、八重歯をニョキッと出して彼が笑う。
この笑顔でこんなに満たされのるは、俺以外いないよ。

だから、俺達は2人じゃなきゃいけないんだ。


「ひな?相手して欲しくなった?」


そうだよ………


「手ぇ貸して」


笑って舜は長い腕を、水の中から俺へと差し出す。

俺より大きなその手を握ると、舜に思いっきり引き寄せられ、服を着たまま水の中へと落っこちてしまった。


「寒いよ舜!!」
「俺があっためてやるよ」


ニッと笑ってその腕の中に取り込まれた。

水でベタベタするその首筋に頬をすりよせると、消毒薬の匂いと、微かな彼の香りがする。


「こん中で溶け合おうか?」
「バーカ!」


舜は、えっちをする事を溶け合うと言う。
俺の中に入ると、じわじわと溶け合う感覚がするらしく、いつの頃からか、行為その物を溶け合うと呼ぶようになった。
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