ぷらいべーと6

□ハッピーエンドじゃなくても、
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「失礼しまーす、こんにちは〜」

「「!!おはようございますっ!!」」

特番の音楽番組の待ち時間。楽屋でメンバーで過ごしていた時だった。ノックされたドアと聞こえてきた綺麗なソプラノの声。ひょっこり顔を覗かせてくれたのは関ジャニ∞の野原みぃちゃんで。まさかの想像もしていなかった彼女の登場に座っていた俺たちは一斉に立ち上がって頭を下げる。

「え!え!なんでですか!」

「ん?え、キンプリだーって思って」

「いやいや!僕ら今から挨拶行かせていただこうと思ってたのに!」

「あ!きてくれる予定だったの?」

「もちろんです!」

「えー、でも待ちきれず来ちゃった♡」

「「っ、」」

みぃちゃんが首を傾けてまぁなんとも言葉なんかであらわせれないほどの爆発的な可愛さでそんなこと言うから俺ら全員の動きが馬鹿みたいにピタリと止まって。それから「やっべ」と自然と溢れた俺の言葉に隣に座っていた廉がすぐに俺に目をやっていたのがわかったけど俺は目の前の彼女から目が一瞬たりとも離せなかった。

「やだやだ!冗談だから誰がつっこんで!!」

「いやいや今のは無理っすよ!可愛すぎますよ!」

「無視はひどいよ!!恥ずかしすぎる・・!!」

「いやいやみぃちゃんマジ毎回言いますけど自分の可愛さを自覚してくださいマジで」

廉は大倉くんと仲が良くて。その繋がりでみぃちゃんともプライベートでよく会うって言ってた。だって廉の20歳のお祝いだって大倉くんの家で松本くんとみぃちゃんに祝ってもらったって言ってたし。だから今も1番に立ち上がってみぃちゃんの近くに向かっては彼女に話しかけてる。それからさすがの懐き方というか好んでる人にはグイグイいくタイプだからか「お茶して行ってください!紅茶いれます!」なんてドリンク入れに行くから気遣いの岸くんも慌てて同じように立ち上がる。海人もじんもそんなにみぃちゃんと喋ることもなかったから多分身体が動けないんだろう。呆然とただただそのオーラに圧倒されたかのように彼女を見つめていて。廉はずっと座っててくれだのなんだのうるさいからみぃちゃん困らせてるけど。

「で?なんでずっと無視?」

いやでも固まるよな。俺も動けないもん。だって可愛すぎたもん。想像の何倍も可愛い顔してくるし。可愛いこと言ってくるし。それなのにめちゃくちゃ優しいし気さくだし。俺らなんかと仲良くしてくれるし。もう神だもんな。いい人すぎるもん。

「あれ?しょーくん?おーい」

なんて一人で考えているといつのまにか隣に来てた彼女が俺の顔の前で手を振りぐんと俺に近づいていた。そんないきなりのみぃちゃんのドアップに「わ!!!」と驚いてしまって椅子から落ちて後ろに倒れそうになる。

「!!びっくりしたー!!!」

そんな俺を止めたのはみぃちゃんで。ぐっと掴まれた肩。目鼻先がぶつかりそうな近い距離。そんな状況に息が止まった。

(はじめましてっ!野原みぃです)

初めてだったこんな想い。人をこんな風に思って胸が一気に沸騰するかのように熱くなったり。かと思えば心地良いお日様に照らされたように温かくなったり。いきなり寂しくなって泣きたくなったり。こんな感情になるのは初めてだった。映画撮影で共演した時、彼女はこんな後輩の俺に温かな笑顔を見せてくれて。

(私キンプリの曲が大好きでよく聞くの!ファンです笑)

(しょーくーん、差し入れで美味しそうなお菓子見つけたよ〜)

年上には見えない無邪気なその姿とか。すげぇアイドルの存在で人気者なのに誰にも分け隔てなく接する姿とか。かと思えば撮影のお芝居が始まった瞬間、

(・・ごめんね、私はあなたにはもったいない)

一瞬で空気が彼女の物となる。スタッフも共演者もみんな息を飲むぐらいその圧倒的な演技に虜になった。それに何よりみぃちゃん自身の人間味というか。可愛いのはもちろんでマジで今まで出会った中で1番綺麗だし。仕草も何もかも可愛いんだけど。けどそうじゃなくて、そうじゃなくて、

(しょーくん、大丈夫?)

(え?)

(なんか疲れてない?大丈夫?)

この人の人間的な部分に素直に惹かれた。ちょっと体調的にも気持ち的にもしんどかったあの日誰よりも気づいてくれたのはみぃちゃんだった。

(いや、その、大丈夫です!!)

(・・自分に嘘ついたらね、どんどんその嘘が本当になってきちゃって、後戻りできなくなるんだよ)

(、・・)

(うん、私も頑張るから一緒にささっと終わらせて早く帰ろう?)

そう言って一緒に隣で頑張ってくれて。そして実は監督にそっと俺のことを話してくれて早く終わらせてくれていて。何よりも、

(・・しょーくん、ちょっとね、休むことも大事だよ)

(、みぃ、ちゃん)

(大丈夫大丈夫、よく頑張ってるよ)

俺の頭を優しく撫でてくれたみぃちゃんに情けないことに涙が溢れて。そんな俺に驚いたように目を丸くした彼女はそのままそっと隣にいてくれた。誰かに褒めてほしいとかそんなこと思ったことなかったのに。みぃちゃんにそう言ってもらえて心があったかくて。自然と涙が出て。俺こんなにもいっぱいいっぱいになってたんだって気づいた。ありがたいことにデビューさせてもらってデビュー曲もたくさんの人に聞いてもらって。ドラマも素敵な声を聞かせてもらって。そんな中で自分たちの実力と知名度が追いつかなくなってきて。それが怖くて不安で仕方なかったんだと思う。そんな俺でもわからない気持ちをみぃちゃんは察してそしてそっとその不安ごと抱きしめてくれた。

「ねぇ、大丈夫?しょーくん?」

「大丈夫っす、すみません、びっくりしたぁ」

「もー、こっちだよ」

「はい、みぃちゃん紅茶!!」

「ありがとう〜、ごめんねー?」

そのままみぃちゃんは俺の隣に腰掛けて。廉から紅茶を受け取ると一口飲んで「美味しい!」なんで笑ってくれたからまたまた全員へにゃりとだらしない顔になる。廉はちゃっかりみぃちゃんの前を陣取って「可愛い!!あざす!」なんてアホみたいなこと言ってる。

「あ、しょうくん!約束守ったよ?私」

「・・え?」

みぃちゃんは持ってた鞄から何か取り出すと俺にハイと差し出す。それを見れば可愛くラッピングされたクッキーで。びっくりしてみればそんな俺をみて眉を寄せた。

「うわ、覚えてないんだ」

「え、違うくて、覚えてるけど、いや、マジでしてくれるとは」

「あ、覚えてた?その反応は忘れてるのかと」

「いやいや覚えてるけど、え、うそ、」

コロナ中みぃちゃんと電話する機会があって。その時にお菓子作りしてるって聞いたから言ったもの勝ち精神で俺も食べたいといえばまた作るよと言ってもらえた。めちゃくちゃその気持ちだけで嬉しかったしマジでしてくれるなんて思ってなかったからびっくりして。可愛いハート型のクッキー。チョコにバニラにこれは何味だろ。差し出されたそれを恐る恐る受け取ればそれに黙ってる周りじゃなくて。

「なにそれ!!しょうだけなんか貰ってる!」

「えー!!いいなぁー!!!」

「いやいやもちろん皆にもあるよ?」

「マジ!?みぃちゃんの手作りクッキー!?」

「つまらないものだけど良ければ」

次々と鞄から出してメンバーに渡していくみぃちゃん。そんなみぃちゃんに少しガッカリした。いやそりゃ別にいいよ?そうだろうなって思ってたけど。俺が頼んだのになんかメンバー全員もらって俺的には面白くないというか。みぃちゃんと約束したのは俺だけなのになんて少し拗ねてたら俺のを見た廉が指をさして騒ぐ。

「は!?しょうのんだけハートやん!」

それに一気にメンバーの視線が俺のクッキーに向かって。そして驚いたり固まったり羨ましそうにみてくるメンバーにみぃちゃんは「当たり前だよ、しょうくんと約束したんだから特別なハートです!」なんて普通に返していて。そんなみぃちゃんにやっぱり限界だった。あー、やばい。これはヤバイ。今俺身に染みて感じてる。あの時のあの役の気持ち、

(ダメなんですっ、俺、、花さんじゃないと!!ダメなんですよ、、花さん以外、マジで、考えらんねぇから、、だから、、俺は、、花さんが!!いいんです、)

もうこの人しかないないって。この人だけだって。そう思うあの気持ちが今ならさらに分かる。ふつふつと体の奥深くから溢れてくるこの気持ちが止まらない。爆発的に動くこの気持ちをどうしたらいいか誰か分かるなら教えてほしい。

「、もお、、、」

思わず両手で顔を隠した。そんな俺にみぃちゃんが不思議そうに俺の肩を揺すって。そんな彼女の手首を掴んだのは無意識。

「そういうことするともう止まんないよ?」

「・・へ??」

「ブレーキなんかもうねぇから」

「・・??」

「みぃちゃん、俺、みぃちゃんのこと大好き」

「・・ん?私もしょうくん大好きだよ」

ふわりと笑った彼女の手首をそのまま引っ張って俺の胸の中におさめる。そんな俺にみぃちゃんは「こら、どしたの?」なんてケタケタ笑って俺の背中をポンポンと撫でた。わかってるよ、俺のこと可愛い男の子って見てることも。後輩として可愛がってくれてることも。けどもういいじゃん。だってみぃちゃん今彼氏いないし。チャンスじゃん。俺だって頑張る資格ぐらいはあるし。だから今はまだ可愛い男の子だったらそれを全力で使ってやるからさ。だから俺みぃちゃんのこと大好きでいることにする。遠慮なしにぶつかていくことにするよ。みぃちゃんが時間になって慌てて出て行ったあとメンバーからのかなり痛い視線。それはお前まじかって目で。それに腹立ってひと睨みしてから携帯をいじってなにも答えませんの意思表示。

「お前止められへんの?それもう」

俺のこと多分1番理解してるであろう昔からずっと隣にいた廉がぼそりと呟いた。顔をあげればすげぇまじな顔をした廉が俺を見ていて。

「・・止められるぐらいの気持ちじゃねぇから」

「絶対辛い思いすんで。俺今大倉くんとみぃちゃんとよう遊ぶから言うてるねんで?意味わかるよな?」

「・・・わかってるよそんなこと」

「止めれるなら無理にでも止めろ」

なぁ廉。馬鹿だなぁ。お前が1番俺のことわかってくれてるならもう答えなんて出てるじゃん。俺がそんな簡単に人の意見聴いて大人しくするようなやつなわけないじゃん。好きになったらすげぇまっすぐにぶつかりにいくこともお前なら分かるだろ。

「・・・って、無理やわな」

そう聞こえた独り言は聞こえないふりした。とりあえず近々ご飯にでも行く約束してもらおう。そこでいっぱい喋っていっぱいこれから会う約束しよう。そんなこと思いながらさっそく彼女からもらったクッキーを写真におさめれば幸せな気持ちが溢れて止まらなかった。ハッピーエンドなんていらないから。今はただただあなたへの思いに一喜一憂させてほしい。ただそれだけ、


ハッピーエンドなんかじゃなくて、


(・・廉、あれマジなの?)

(残念やけどマジやな)

(・・は?しょうどんだけ面食いなの?)

(面食いってか妥当ってか。10分も話したらマジで惚れるもん、みぃちゃんって)

(・・みぃちゃん、こわ)


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