ぷらいべーと

□心からの祈りをあなたに、
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連絡を取らなかったのは紫耀くんから連絡が来ないことこそが答えだと思ったから。それ以上の理由はなかった。だからニュースで知った彼のグループのことに胸が痛んだけど、それでも彼から何も聞かされてなかったってことはそういうことなんだと自分の中では思ってた。きっとまた話したくなったら話してくれるだろう、って。それまで待っていよう、いやむしろ私に話さなくても彼が誰かには心のうちを話せていたらそれでいい。誰かに今支えられているならばそれでいい。私が何かしてあげたい、なんていう烏滸がましい気持ちなんかじゃ無くて。ただ彼が少しでも笑っていますようにと願う日々だった。何度か連絡をしてみようとは思ったけどその度にこう思って自分に言い聞かせて止めてたところもあると思う。けどそんな気持ちを変えたのはきっとこんな私を見かねたたーくんが廉くんにこっそりと連絡してくれたことがきっかけだった。

(、もしもし?廉くん?)

(あ、みぃちゃん?もしもし?ごめんなさい、いきなり)

(いやいやこちらこそ。どうしたの?)

(あー、んー、ちょっとみぃちゃんにお願いがあって)

(お願い?)

(はい・・、紫耀に連絡、してやってくれないすかね?)

(え?)

(多分あいつ、ほんまは今みぃちゃんに会いたくて仕方ないと思うんで)

そんなことないと思う、と否定したけど廉くんはただ私に頼んだ。彼から連絡だってきていないことを言えば困ったような笑い声が聞こえて。あいつはそういうところがあるからって。その声から今自分だって色々大変なはずなのに廉くんが心から紫耀くんを心配してるのがわかってぐっと胸が痛くなる。だからせっかくの廉くんの気持ちも無駄にしたくなくて聞いた場所にすぐに向かった。ただ顔を見たら帰ろうってそう決めて。また落ち着いたらご飯でも行こうねってそれだけ言って帰ろうと思ってた。けど、

「っ、みぃ、ちゃん、」

それができなかったのは向かった事務所の部屋にいた彼が私をみるなりぐにゃりと顔を歪めていきなり涙を流したから。そして私の方に走ってくるなり、がばっと凄い勢いで抱きしめたから。

「、紫耀くん、」

「っ、ごめん、みぃちゃん、俺、俺、」

「んーん、大丈夫。いいよ、そんな慌てて言葉にしなくても。大丈夫、大丈夫だから」

トントン、と背中を撫でるとしゃくりあげて泣き出した紫耀くんに私の胸がただただ痛くなる。そのままただひたすら背中を何度も撫でてぎゅーっと抱きしめてどれぐらい経ったのだろう。もしかしたらそんなに経っていないかもしれないし、随分時間が流れたかもしれない。落ち着いたのかゆっくり離されたから、やっと見れた紫耀くんの目は泣きすぎて痛々しいほど真っ赤になってた。

「落ち着いた?」

「、ん、ごめん」

「違うの。私こそごめんね。本当は紫耀くんから連絡来るまで待ってるつもりだったの。でもね、廉くんが連絡くれて」

「え」

「会って欲しいって言ってくれて。それで、じゃあ、顔だけでも見て帰ろって思って」

「っ、ごめ、」

「いやだからね?謝ることないから、てか何で謝」「ごめんなんだよっ、俺、だって、みぃちゃん言ってたじゃん。俺らに、言ってくれたじゃん」

「・・・・なにを?」

「俺らは、家族だから、皆で手を取り合って、やっていこうねって」

その瞬間思い出したのはあの日の忘年会のこと。確かに最後にみぃちゃんよければ何か一言ください!なんて風磨がまたふざけて言って。それに何言ってんだ、と思いながらもまぁ誘ったのは私だし。せっかく皆が来てくれてこんなことないなって思ったから、少しこの忘年会を開催したわけとか、自分の気持ちを話してしまったあの時間が頭に流れる。

(すごくこう今グループにも色んな形がでてきて、追いかけてた先輩が突然いなくなっちゃったり、突然もしかしたら、隣にいた仲間が足を止めることもこの先あるかもしれない。けど、私たちは家族だから。たかが同じ事務所だって言ったらそれまでだけど、けど、これも何かのご縁で、ここにこうして今一緒にいるのも奇跡だから。この軌跡を大切に皆で手を取り合って、この事務所に誇りと責任を持ってもっともっと切磋琢磨していこうね)

「あんな素敵な言葉、言ってくれたみぃちゃんを、俺は、裏切った」

「っ、」

「みぃちゃんのこと、裏切ったから、だから、俺、俺から、連絡できなくて」

今度は私の番だった。居ても立っても居られなくなった。離れたしょうくんの腕を掴んで今度は私がそのまま抱きしめた。ふわりと包み込むように彼のことを抱きしめたのは衝動的だった。

「嫌われてるの分かってたから、もう、会ってくれないと思って、」

「待ってしょうくん」

「本当は1番に話聞いて欲しかったけど、俺、弱虫だったみたいで、怖くて、」

「ねぇ、待って」

「みぃちゃんがもう俺に笑ってくれないと思うと、なかなか、電話、できなくてっ、」

何言っても黙らない彼の唇に指先をそっと当てる。そんな私に目を丸くした彼は黙って私をみたからやっと目があう。そんなに流したら枯れちゃうんじゃないってぐらい止まらない彼の涙をゆっくりと手で拭うけど、拭っても拭っても涙は簡単には止まらない。

「・・そんなこと、本気で、思ってたの?」

「、っ、だって、」

「私が、そんなふうに思ってると思ってて、連絡してこなかったの?」

「、うんっ、だって、みぃちゃん、事務所のこと、大好きだし」

「うん、大好き」

「、っ、」

「でも、そんなの比べられないぐらい紫耀くんのことが好きに決まってるのに」

「、っ、」

「ごめんね、紫耀くん。私があなたを、縛ってたんだね」

「、っ、ちが、」

知らないんだろう。きっと彼は。私があなたにどんだけ救われてきたか。きっと分かってないんだろう。私があなたの存在に、あなたにどれほど救われて。あなたがいるからギリギリの気持ちの中でもあの作品を終えることが出来たなんて。

(みぃちゃん!!見てみて!これやばくない?)

はじめの印象はキラキラした男の子。純粋で眩しくて。あー、なんて綺麗な子がいるんだろってそう単純に思ってた。でも一緒に作品をしていくうちに、時間を過ごしていくうちにどんどん気づいたよ。あなたがどんな人よりも優しいこと。あなたが誰よりもファン思いなこと。そして、

(、俺、俺、ほんとに、進む道がわからなくなったんだ)

ジャニーさんを愛していたということ。心から尊敬していたことも。だから彼がいなくなって自分の進むべき方向がわからなくなった辛さも理解できた。

(みぃちゃん、俺さ、ジャニーさんと約束したんだよね)

あなたはすごくすごくまっすぐな人。凄く純粋で心が綺麗な人だから一度言ったことは曲げない強い人。柔らかそうな雰囲気を持ちながらも自分の信念はちゃんと持ってて、その軸をぶらさずに生きてる人。だからきっと辛かったんだと思う。この今の元来とは違う事務所の雰囲気とか流れに戸惑い傷つき苦しみ、いっぱい考えたんだと思う。簡単にあんな決断をする人じゃないことぐらい、安易な気持ちでファンを悲しませるようなことしない人なことぐらい、それぐらい簡単にわかるから。だから、

「いっぱいいっぱい苦しんで考えたんでしょ?」

「、っ、」

「そんなに苦しんで、何度も悩んで出したしょうくんの結論を私が否定すると思う?」

「、みぃ、ちゃん、」

「確かに、この事務所に誇りと責任を持って、って言った」

「、」

「でも私は一回も紫耀くんがこの事務所に誇りと責任を持たなかったことはない、って感じてる」

「っ、」

「それは今もだよ。あなたが誇りと責任を持ってたから、この結論になった」

「、っ、」

「馬鹿だなぁ、紫耀くん、私が、しょうくんをっ、否定するわけないじゃん」

溢れた涙で彼の顔が見えなかった。私が泣くことじゃないのに涙が止まらなくなって歪んだ視界。見えなかったけど気づいた時にはぎゅっと背中に回された腕に私も応えるように腕を回す。ぎゅーっと今度は力一杯わたしも抱きしめ返した。ねぇ、紫耀くん。世間はいろんなことをあなたに言ってくるでしょ。それは肯定も否定の声もある。よくわからない考察だってされる。あらゆる過去の切り取りをとって色んなことをあなたにぶつけてくる。今のあなたの言葉を色んなふうに捉えてはもしかしたら心無い言葉であなたを攻撃してくる。ファンの悲しい声も怒りの声だって沢山届く。けどね、けどそんなこと流しとけばいいんだよ。こんなこと言ったら無責任だし、こんなこと言ったらいけないのかもしれないけど。けど、

「事務所なんてどうでもいい。いや、よくないけど、そんなこと、なんだろ、うん、どうでもいい」

「、」

「紫耀くんの人生に比べれば、事務所も、世間体も、よくわからない人の声も、全部、どうでもいいよ」

「っ、」

「紫耀くんは紫耀くんが思うままに突き進めばいい。あなたの人生だから、しょうくんが思うように生きるのが正解なの」

「、」

そうやって離れていった先輩は沢山いる。今ここから離れて自分の好きなようにやってる人たちを私は沢山知っている。確かにその道はつらくてしんどいことが多いかもしれない。けどそれでも決めたんだからそんな予想に怯えることなんかせずにどんどん歩いていけばいい。

「・・紫耀くんはさ、私のことただの事務所の先輩、とでも思ってるの?」

「、え、そ、んなこと」

「事務所が変われば会えない、そんな関係なの?私たち」

「、」

「私は会いたいよ。これからも変わらず、一緒に過ごしていきたいよ」

「っ、」

「ダメなの?できないの?私たちのこの関係に、変わりなんてあるの?事務所変わっただけで、なんか変わる?」

「、か、わんない、俺、どこにいっても、ずっとずっと、1番にみぃちゃんが好きだよ」

「っ、ありがとう、私もね、何も変わらないよ」

「、みぃちゃ、」

「別にジャニーズ事務局のKing & Prince所属の平野紫耀が好きなんじゃない。平野紫耀くんが好きなの。だから別にその肩書きが変わろうが私の中で紫耀くんは何も変わらない。ずっと好きだよ、」

「っ、」

彼の頬にそっと手を当てると紫耀くんはビクッと肩を揺らした。ねぇ、神様。どうかお願いします。どうかこの人をこれ以上傷つけないで。彼の若い思いをどうか見守ってて。ジャニーさん。ねぇ、聞こえますか。どうかこの子をずっとみていてあげて。

「紫耀くん、私の思い、ちょっとなめすぎ。」

「、」

「分かった?私ね、紫耀くんが思ってる以上に、紫耀くんのこと大好きだから」

「っ、」

「簡単に縁切れると思ったら大間違いだよ」

鼻をぎゅっとつまんでやれば彼はやっと笑顔を見せた。そんな彼の笑顔がずっと続くように願えば頭に落とされた小さな魔法。

「、っ、ちょっと、」

「ありがとう、みぃちゃん」

「、」

「俺、やっぱみぃちゃんのこと大好き」

本当言うと寂しい気持ちも大きいんだよ。あなたがもう事務所からいなくなると思うと、同じ屋根の下にいないと考えるとちょっと胸がきついの。わたし好きだったから。しょうくんがグループのメンバーの中で自然と笑ってる姿が。けどきっと今その気持ちになってるのは私より何倍もあなた自身とそしてメンバーだと思う。いつかあなたが笑ってあの頃もよかったけど今も好き、って言えるように日が来ますように。メンバー皆で集まって楽しい思い出を振り返れる時間がありますように。これからのあなたの人生に幸せがありますよう、全力で祈るよ。わたしの全てをこめて。


心からの祈りをあなたに、


(あ、もしもし。廉?おー、ん、あの、みぃちゃん、来てくれて話せた。ありがとう、俺、頑張りたいって思えた)


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