ぷらいべーと

□一夏の恋と呼ぶには早すぎる
1ページ/1ページ


「もう〜、夏に花火したかった〜!みぃちゃんと花火したかったのにできないのなんでぇ〜??」

「ねぇー、コロナ多いもんねぇー」

「えー、俺絶対今年は一緒に花火するぞって決めてたのに」

そんな俺の言葉にケタケタと笑うみぃちゃん。あー、笑った声も可愛い。みぃちゃんと季節らしいことしたかったのに、またコロナも増えてるしでうまく思うように動けないのがかなりもどかしい。

「紫耀くんツアー前でしょ?そんな時間ないよ?」

「時間なんて作るもんだから。みぃちゃんとの時間ならいくらでも作るし」

「わ、名言。さすが」

「もぉ〜馬鹿にしてるでしょ!俺本当に浴衣着てみぃちゃんと花火したかったんだよ?」

馬鹿になんかしてないよと言うみぃちゃんの声が笑ってるから。絶対馬鹿にしてるじゃん、って思いながらもきっと今可愛い顔して笑ってるんだろうなー、その顔見たいなぁーなんて思ってたら向こうからそろそろ休憩終わりなんていう廉の声が聞こえる。そんな声が電話越しの彼女の耳にも届いたのか、「ほら!呼ばれてる!頑張ってね!」と電話を切るように促されたから、えー、とガキみたいに駄々こねればまた笑われた。

「んー。じゃあ一個だけいい案があるよ」

「え?なに?」

「ふふ、なーいしょ!」

そんな電話をしたのはもう3日前の話。あれからみぃちゃんも次の冬ライブの打ち合わせをしていたり。俺らも絶賛ライブ前になっちゃって電話の時間がなかなかあわなくなった。でも毎日どんな時でも彼女をふと思い出す時間がある俺は相当みぃちゃんの虜になってるらしい。ため息ついてエイトさんのSNS見てみぃちゃんの動画確認してたら廉に「おまえ気持ち悪いで」と暴言吐かれたけど。お前に俺のこの真っ直ぐな気持ちはわかんないだろなんて悪態ついてるとマネージャーから今日は夜から事務所で打ち合わせです、と言われて。

「ん?なんの打ち合わせだっけ?」

「ライブについて構成のことです」

「え、そなの?事務所でやんの?みんなも?」

「皆さん同時は時間ないんですけど、とりあえず今日は岸さんと神宮寺さんは来られます」

「へー、りょーかい」

「そのまま公式のインスタのアップとか色々SNSとるんで事務所にしたんで、お願いします」

「あ、なるほど」

とりあえず夜に事務所だと教えてもらったので仕事が終わり次第、マネージャーに連れられて事務所へと向かった。それからなんか甚平でインスタを撮るから着替えろとか言われて。紺か白選べるって言うから紺にして。あっという間に甚平も着て髪の毛もセットされて打ち合わせ場所に向かっていたのに。連れていかれてのはなぜか事務所のちょっとした庭みたいなスペース。

「え?なんで外?」

「いやここで写真撮らせてもらいます」

「あ、はーい」

「わーーーー!!!!」

「ぎゃーーーー!!!!!!!」

すると突然後ろから肩に触れられて大きな声が耳元で聞こえてきたからびっくりして腰抜けたしひっくり返って慌てて振り返れば。そこには、

「ちょっとやめて、むり、あはは、ほんと、いつも通り、反応がすごいっ、」

お腹を抱えてめちゃくちゃ笑ってる彼女がいた。え、なんで。しかもめちゃくちゃ可愛い白とピンクの浴衣着てるんだけど。髪もお団子なんだけど。え、やばい。俺みぃちゃんと花火したいとか言いすぎて幻覚見えてるわ今。やっば。なにこの嬉しい幻覚。

「、な、んで、」

「紫耀くんが花火したいって拗ねてるからサプライズ」

「、っ、」

「じゃーん!ここでならヤイヤイ誰にも言われないし、花火2人で出来るでしょ??」

「、え、ま、じで?」

「大マジ!私いい案あるって言ったじゃん〜!天才じゃない??」

ニヤリと笑うみぃちゃんがめちゃくちゃ可愛くて。すっげぇ嬉しくて。あー、これはやばい。こんな嬉しいサプライズなんてあるの?って、そのままぎゅっと彼女に抱きついた。

「わ、びっくりした」

「すっごい嬉しい」

「ふふ、それはよかったです」

「みぃちゃん、浴衣すっげぇ可愛い」

「紫耀くんも甚平かっこいいよ?」

「っ、みぃちゃん、お願い、一瞬マスク外して?」

「・・・そう改めて言われると、恥ずかしい」

この人ほど小顔な人いないなってぐらい顔が小さいから。みぃちゃんマスクつけたら本当に顔のほとんど隠れちゃうんだよね。だからせっかくの浴衣が嬉しくて全部ちゃんと可愛い姿を見たいから。ゆっくり離れて一歩後ろへさがった。そうすると恥ずかしそうに目線をそらしながらも俺の要望通り下を向いてマスクを取ってくれた彼女。

「・・やっべ」

「え、やっぱり?暑いからお化粧崩れ「世界一可愛い」

「っ、」

「すっっっごい可愛い!!!浴衣!見れて嬉しい!!」

「、あははっ、ありがとう」

よし、花火しようと次に見せてくれたのはわざわざ用意してくれてた花火セット。「すげぇ!!」と目を丸くする俺にみぃちゃんはまるで小さな子どもが悪戯が成功したみたいなそんな顔を見せてくれた。それから2人で写真撮りあったり花火振り回したりしてたら、楽しい時間はあっという間に過ぎていって。

「最後はこれだよね」

みぃちゃんが見せてくれたのは線香花火。どっちが先に落ちるか勝負ね、なんて。2人で今度はゆっくり持ちながらパチパチ花を咲かせるその姿に綺麗だなぁと笑いあった。じーーっと時間をかけて大きくなって、でも突然ポトンって落ちる姿になんとなく泣けてきて。ちょっとセンチメンタルになるこの気持ちがきっと夏の風物詩なんだろうなぁ。

「綺麗だねぇ、、」

「、、うん、すっげー綺麗」

「綺麗だけど、ちょっと切ないね」

「・・うん」

「、、楽しかったね〜」

「・・・」

そう言ったみぃちゃんに言葉が返せなかったのは本当に涙が出てきたから。鼻も啜ってるし絶対泣いてるってバレてると思う。それなのにみぃちゃんは何も言わなかった。ただただ黙ってじーっと2人で前を見ていて。けどしばらくするとみぃちゃんが少し俺の方に寄ってくれて2人の肩がとんと軽くぶつかった。

「私ね、お祭りの後っていつもすごく寂しくなるの」

「・・・」

「けどそれって、それだけそのお祭りが楽しかった証拠でしょ?」

「・・・」

「今、すごく虚しい気持ちになるのは、紫耀くんと過ごした夏が楽しかったからだよ」

「っ、」

「ありがとう、紫耀くんのおかげで私たくさん楽しい気持ちにさせてもらえてる」

みぃちゃんの言葉にさらに視界が歪んで仕方なかった。もう涙は止まらなくて。我慢できなくて顔を両手で隠す。そんな俺の背中にあったかいものが静かに触れる。なんだよ、もう。ずるい、みぃちゃんは本当にいつもずるい。俺よりずっと大人でずっと前を歩いてて。みぃちゃんといると自分がすげぇガキのように思う。けどみぃちゃんといると、本当に、この人の全てにおいて好きだなって思うから。考え方も全部好き。どうしよう、好きで好きで仕方ない。燃えるような恋をするってこういうかというのかな。

「、ずるいよなぁ、みぃちゃんは」

「え?」

「みぃちゃん大好き、」

「うん、私も好きだよ、ありがとう」

違うんだよ。みぃちゃんが思ってるような好きと俺の好きは全然違う。全然違うけど、それでも、みぃちゃんが嬉しそうに笑ってくれるから、だから俺も虚しいけど寂しいけど、けど嬉しくもなって彼女の手のひらをぎゅっと握った。

「来年も一緒にしよ」

「うん、いいよ」

「俺以外の男としちゃダメだよ」

「わ、なにその束縛!笑」

「それは無理かもだったら、俺以外の後輩とは絶対にしないで、したら俺拗ねるし怒る」

「あはは、それは大変」

「みぃちゃんが来年、俺以外の後輩とここで花火してたら暴れて事務所つぶす」

「え、こわいって、なに、真顔やめて?」

ねぇ、みぃちゃん。みぃちゃんと出会って沢山俺ははじめての気持ちを知ったよ。

「みぃちゃん、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう紫耀くん。お互いライブ頑張ろうね」

ちょっとでもみぃちゃんの初めても俺がもらえますように。みぃちゃんが1番可愛いがってる後輩になれますように。次の季節もみぃちゃんと1番楽しめるのは俺でありますように。いろんなことを願いながら彼女にまだ帰りたくない、なんて駄々をこねる俺はやっぱりまだまだただの餓鬼だった。


一夏の恋と呼ぶには辛すぎる、


(だめです、帰ります!明日も早いんでしょ?)

(早くない!)

(嘘の顔してる、だめ、)

(・・・ケチ!!!)

(もお〜、マネージャーさん呼ぼーっと)

(ねぇ!!!みぃちゃん!!!!)


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ