短編
□リタルダント
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夕焼けの差し込む部屋で、音が深く控えめに響く。旋律が、滑らかに紡がれる。オレンジ色の空に溶けるのは、ショパンの「別れの曲」。
鍵盤に指を滑らせるのは、俺の大好きな人。ゆっくり、ゆっくり最後の音が尾を引いて、神童が息をついた。
「さすがだな、神童。」
「途中でテンポが崩れた・・・もう少し練習しないと。
完璧になったら、一番に霧野に聞いてほしい。」
「ああ、約束する。」
「次は、何がいい?」
「神童の弾く曲なら何でも。」
俺は、この時間が好きだ。神童と二人でいられる、数少ない時間。
広い部屋を見渡して、目に付いたのは銀色のタクト。