短編
□蕾の桜
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通学路にある、まだ蕾もつけていない桜の木。
これが咲く頃には霧野といられなくなるなら、桜なんて咲かなくてもいいと思った。
曲がり角の向こうから歩いてくるピンク色の髪は、桜なんかよりもよっぽど綺麗で。
「おはよう、神童!」
こうやって二人で学校に行く回数も、確実に残り少なくなっていく。
前に進みたいはずなのに、ここに留まっていたい気持ちもある。
霧野と違う高校に行くことにしたのは自分の意思で、だから今さら後悔したってどうしようもない1のに。
ふと、霧野の顔を見た。
そのピンクの髪と青い目は、春の空と桜を連想させて。
綺麗で触れがたくて、遠くて壊れやすそうで。
それでも隣にいられるだけでよかった。
だけどこれからはそれも叶わない。
自分で選んだ道なのに、なんとなく足踏みしている。
そんな自分が嫌いになる。