壬生狼と過ごした2217日
□バラガキの夢
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どうやらここは京都の八木さんという方のお家らしい。
歳さんと総司くんの話によると、二人をはじめ、井上さん、山南さん、永倉さん、原田さん、平助くんは、もともとは江戸…今でいう東京で道場をやっていた近藤さんの門下生だそう。
今年に入って京都にいる将軍を守るために募集された浪士隊に応募し、数日前に江戸から歩いて京都までやってきたそうだ。
その時は200人以上の団体だったらしいけど、実は浪士隊というのは清河八郎という人の嘘だったらしく、怒った近藤さん率いる8名と、さらにそこに芹沢さん率いる5名が合流し、計13名の皆はそのまま壬生浪士組としてここに残ったということだった。
「武士ってぇのは、将軍様をお守りするために刀を振るうもんだからな」
はっと得意気に笑う歳さんだったが、その刀をか弱い女の子に向けたのはどこのどいつだよって言う話で。まぁさすがの私もお前だよお前!!なんてことはハッキリと言えないわけで。
「…なんだよ」
歳さんの勘の鋭さというかなんというか。
それは人より優れていると思う。
「いえ…てゆーかこの時代の男はみんな武士なんですか?」
ここにいる男どもは皆、腰に刀をぶら下げている。時代劇なんてめったに見ないけど、確か越後屋、お前も悪よのぅ…みたいな人もいたと思うんだけど。
「クスッ。由香さんって面白いこと言いますねぇ」
「全員が武士なわけねぇだろうが。俺や近藤さんなんかは元は農民の出だ」
…――そうだ。俺の実家は日野の豪農だ。
小せぇ頃から武士に憧れて…
周りの奴らに無理だと笑われながら、俺は薬の行商をしつつ、その傍らいろんな道場で剣を学んだ。
おかげでいろんな流派が混ざっちまって、近藤さんとこの天然理心流は目録止まりだが、実戦ではそんじょそこらの奴には負けたことがねぇ。
地元では喧嘩に明け暮れバラガキと呼ばれた俺だが、それは所詮、小さな村の中での戯れ言だ。
世間に名を知らしめる武士になりたい――…
いつの頃からかそう思いはじめた俺にとって今回のことは絶好の機会だった。
かっちゃんと―…
近藤さんと共に、武士の誠を見せてやる。
そしていつか近藤さんを幕臣に。
それが今の俺の夢だ。
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