壬生狼と過ごした2217日
□負けねーぞ、オイ
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今日、角屋に来たのは幹部だけではない。
普段、盃をかわすことのないような平隊士一同も一緒だったため、角屋の大広間はあっというまに人で溢れかえった。
芹沢さん、近藤さん、新見さんはもちろん上座に。
その次に幹部達。そして平隊士達と順に腰を下ろしていく。
えっと…この場合、私はどこに座ればいいんだろう。
あのにっくき遊女から歳さんを守るには、やっぱり歳さんの隣がいいんだけど…
平隊士の手前、堂々と歳さんの隣を陣取るわけにもいかない。
普段は図々しい私だってそれくらいの常識はある。
若干戸惑っていると、平隊士の方達が遠慮がちに声をかけてくれた。
「由香…さんですよね?もしよかったらこちらに…」
「どうぞ、お座りください!」
「えっと…」
ぶっちゃけ、平隊士達とはあまり仲良くするなと歳さんに言われている。
私が未来から来たことがバレたら厄介だから、と。
どうしよう…と、ちらりと歳さんの方を見るも、なにやら新八さんと話していてまったくこちらに気付いてない。
…あの芸妓は俺がいただく、とか相談でもしあってんですかこのやろう。
「由香さん?どうしたんです?」
「あ…いえ。んじゃ遠慮なく」
なんだか、せっかく声をかけてくれた平隊士達に悪いと思い、私は用意された場所に腰を下ろした。
…まではよかったが、着席した途端、まわりから好奇の視線が注がれる。
…そりゃあそうだ。
なんてったって、あの近藤局長の遠縁だもの。
ずる賢い奴だったら私に近付き、近藤さんに取り入ろうとする奴だっているんじゃないかな。
「由香さんは近藤先生の遠縁だと聞きました」
ほら。さっそくきたよ。
「えぇ…まぁ…」
「ご出身はどちらで?」
「今、おいくつなんですか?」
「どういった事情で近藤先生のもとに?」
「あ〜…えっと…」
こんなに質問攻めに合うなんて…
スキャンダルを起こした芸能人の気持ちが少しわかった気がした。
というか、これをどう切り抜けてくれよう。
皆、目を輝かせて私の返答を待っている。
すると…
「まぁまぁ、やめませんか。由香さんが困っていらっしゃる」
フワリと優しい透き通るような声がその場にそっと響き渡った。
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