壬生狼と過ごした2217日

□風のような少年
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「…てなわけだ。左之、お前の力も借りたい。少しいいか?すでに源さんには声をかけてある」

「あぁ、わかった」


どうやら二人の会話が一段落したらしく、左之さんがスッと立ち上がった。


「あれ?左之さん、もう行っちゃうんですか?」

「あぁ。案を練らなきゃならねぇからな」

「…案?」

「てめぇ、人の話聞いてなかったのかよ」


歳さんが深い溜息をつく。


「え〜と…」


はい、聞いてませんでした、とはさすがに馬鹿な私でも言えない。
私が言葉を濁していると、すかさず左之さんがフォローしてくれた。


「近藤さんが今回の事を大坂の西町奉行に届けたらしいんだが、奉行与力で一人うるせぇ奴がいるみたいでな。なんで斬ったのか詳細を教えろってしつこいんだと。だからその対策を俺らで考えるってわけだ」

「へぇ〜…てかそもそもなんで揉めたんですか?」

「知らねぇ。そこまで文には書いてなかったな。まぁでも……あの芹沢さんのことだからな……」


う…
揉めた理由が容易に想像できてしまうのは私だけではないだろう。
どうせ喧嘩をふっかけたのは芹沢さんの方なんだろう。しかも肩がぶつかったとか、道を譲らなかったとかそんなくだらない理由で。
…あの人は人の命を虫けらのようにしか思っていないんじゃないだろうか。

普段は威勢のいい豪傑なオッサンだけど、暴れる時に見せるあの眼。
…あの目は間違いなく冷酷な人殺しの眼だから。
どれだけの人を殺めればあんな眼になるのか。

私が芹沢さんにいまいち心を開けない理由はそこにあるのかもしれない。


でも…
この時の私は知らなかった。

私が気付かなかっただけで、壬生浪士組の皆が芹沢と同じ、人殺しの眼をしていたなんて。



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