壬生狼と過ごした2217日

□その男尽忠報国の志を持つ
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「え…と…芹沢さんは夢とかあるんですか?」


その見透かすような視線に居心地の悪さを覚え、逆に芹沢さんに問い掛ける。


「……お前は、尽忠報国という言葉を知っているか?」

「じんちゅうほうこく…?聞いたことないです」


芹沢さんは「そうか」と呟くと、最後の天ぷらをつまみ、口へとほうり込む。


「尽忠報国ってのはな、忠節を尽くし、国から受けた恩に報いるってことだ。その尽忠報国の志を生涯貫き通すことが俺の夢だ。例え、どんな最期を迎えようとな」

「………」


……正直。
話が難しすぎて、芹沢さんが言っていることはよくわからなかった。
でも…
歳さんが局中法度を作った時に言っていた、男のロマン。
芹沢さんにとっては尽忠報国ということがまさにそれなのであろう。

少年のように輝く表情で夢を語る芹沢さんを見てそう思った。


――その時。


「芹沢先生!芹沢先生!」


襖の外で平山さんが芹沢さんを探す声がした。


「なんだ!俺はここにいるぞ!!」


芹沢さんは襖を開けてひょっこり顔を出しながら叫んだ。
その声を聞いて、ドタドタと平山さんが駆け付ける。


「どうした!慌ただしい!!」

「すみません。先程耳に挟んだのですが―…」


そう言って平山さんは芹沢さんだけに聞こえる声で耳うちする。

どうしたのかな?
なんかあったのかな……

みるみるうちに表情が険しくなる芹沢さん。
さっきまでの夢を語る少年の顔をした芹沢さんはもういない。
そのかわり、あのいつもの……


「よし、行こう。隊士を集めろ!」

「芹沢さん!!揉め事は…」

「女は黙ってろ!それと、このことは近藤一派には口外無用」


立ち上がりかけた私に、芹沢さんはあの冷たい眼で私を見下し制止する。他人に物を言わせない、あの眼だ。


「ッ……」


私は蛇に睨まれた蛙のように、芹沢さんと平山さんが部屋を出ていくのを見ているだけしかできなかったのであった。




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