壬生狼と過ごした2217日

□序章
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「あぁ!?芹沢さんが大和屋を!?」


歳さんの馬鹿でかい声に思わずお茶を吹き出しそうになる。

あれから―…
私は歳さんが仕事をしている部屋に転がりこみ、総司くんとお団子を食べていた。
芹沢さんが隊士を集め、平山さんとともに出かけたことは歳さんや総司くんには言えなかったのだけれど。言った方がいいかもとは思いつつ、芹沢さんのあの眼を思い出すとどうしても言えなかった私。

そんなところに、監察方の山崎くんがすごい勢いで転がりこんできた。


「どうしたの?」という私の問い掛けもスルーされ、山崎くんは歳さんのそばにスッとひざまずくと、口を開き一気に話しだした。

…どうやらさっき出ていった芹沢さんはやはり何かをやらかしたらしい。
山崎くんは早口だからあまり聞きとれなかったけど、芹沢さんが大和屋庄兵衛さんという所にお金を借りに行き、断られたらなにかと理由をつけて大和屋さんの土蔵を大砲やら焼玉やらをぶち込んで打壊し始めてるということだった。


「チッ…何やってんだよ、あの人は!!」


歳さんがイラッとした様子でそう叫ぶと、同時に文机にダンッと拳がふり落とされた。


「!!」


その音に思わず身体が硬直する。
こんなに感情をあらわにした歳さんを見るのは初めてかもしれない。






「ッ…悪ぃ……」


俺のせいで由香の身体が強張ったのがわかった。
俺としたことが…
らしくねぇ……

だが今回の芹沢さんのこの一件。
こりゃあ下手すると壬生浪士組全体の危機になるかもしれねぇ……

あの人たちはまだいい。
郷に帰ればまだ水戸藩士の名がある。
だが、俺達はどうなる…?
俺や近藤さん…
総司や新八……

江戸に帰ることになれば、俺達を待っているのは田舎の道場主や薬の行商だ。

ふざけんじゃねぇ…
やっと武士になれたんだ!
やっと手に入れた夢の第一歩を手放してたまるか!!


「山崎!大和屋へ急ぐぞ!」

「わかりました!」

「…歳三さん」


立ち上がったところで総司に呼びとめられる。
振り返ると、総司は何をかんがえているのかわからねぇ瞳で俺を見据え―…


「僕もお供しましょう」


背筋にゾクッと悪寒が走るような笑みを浮かべながらそう言った。



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