壬生狼と過ごした2217日

□野郎共の出陣
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「わりぃな。じゃあさっそくこいつを頼む」


そして歳さんから渡されたのは手の平サイズの二つの石。


「えっと…頼むって……」

「切り火だ。知らねぇか?こうやって二つの石をな…」


こうやって擦り合わせんだよ、と言いながら石同士をぶつける仕草をする歳さん。


「あ…もしかして縁起かつぎですか?」


テレビで、昔の人は縁起かつぎのために出かけ間際、背中で石をカチッカチッとやってもらっていた、というのを見たことがあったかもしれない。
日本の昔からの伝統なんだと。


「あぁ。景気付けに頼む」


歳さんがこんな縁起かつぎをするなんて。
正直驚いた。
でも…それだけ今日は壬生浪士組にとって大事な警備なんだろうなということがよくわかった。


「じゃあ…」


背を向けた歳さん、近藤さん、総司くんに向かってこんな感じだったっけ…とうろ覚えな記憶を頼りながら二つの石をカチッカチッと擦り合わせる。
まぁ、初心者の私がうまく切り火を出すことなんてできるはずもなく…


「ご、ごめんなさい…うまく切り火が……」


焦る私に歳さんはフッと笑いかけ、その大きな手がフワリと頭の上に置かれた。


「縁起かつぎにゃあ充分だ。ありがとよ」

「////!!」


私に向けられた歳さんのその笑顔が本当に本当にかっこよくて、優しくて。
思い起こせばこの瞬間に私は歳さんに完璧惚れたのだと思う。


「やだなぁ。出陣前に見せ付けないでくださいよ」

「そうだぞトシ」

「ばっ…/////!そんなんじゃねぇよ////!!」

「そ、そうだよ////!!もう、二人とも////!!」


でも正直…
二人の冷やかしの言葉が恥ずかしくもあり、嬉しかったなんてことは内緒だ。


「ったく…行くぞ!!」


歳さんのその一言で、たくさんの浅葱色の羽織が一斉に風に舞う。

…どうか皆、怪我のないように。

男達の背中を見送るその列の中。
赤地に"誠"という一文字を白く染め抜いた隊旗が、高く風になびいていた。




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