壬生狼と過ごした2217日

□嫉妬のはざま
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「と、ころで土方さん!なにか用があったんじゃねぇのか?」


今だ眉間に深いシワを刻み、はぁ…とため息をついた歳さんに、場の雰囲気を変えようとしているのか恐る恐る新八さんが問い掛ける。


「あぁ…新八に話があったんだったな」


まだ盃を手にしていた私をちらりと一瞥すると、歳さんは半ば諦めたようにスッと腰を下ろした。


「今朝、新しい隊士が4人入った」

「今朝!?なんだってそんな早くに。誰が手合わせしたんだ?」

「いや、誰もしてねぇ」

「は…?」


新八さんの顔にあきらかに?マークが浮き出る。
新八さんが混乱するのも仕方ない。
壬生浪士組への入隊は必ず誰かと手合わせして、実力を見てからではないといけないというのが暗黙の了解だったし、なにより歳さんの険しい表情がただ事ではないことを物語っていた。


「いったいどういうこった?」

「それがな…入隊してきたやつは、名こそ京浪士、宇都宮浪士だが、つい先頃まで長州天誅組だった奴らだ」

「なに!?」


新八さんの表情が驚愕する。
そりゃそうだ。つい先頃まで長州天誅組。
長州天誅組といえば、過激尊攘急進派としてその名を轟かせている。
そんなところに所属していたような輩が、たった数日で思想をコロリと変えるなんて思えない。

だが、彼等は口々に「議論の相違で脱退してきた。我々も壬生浪士組と会津侯と共に勤王のために奉公したい」と言い切ったそう。

う〜ん…それでもなぁ…
スパイかなんかだと思うのが普通だろうねぇ…


「名は荒木田左馬之助、御倉伊勢武、越後三郎、松井竜次郎」

「ぶっ…!」


あまりにもとってつけた名前です、と言わんばかりのネーミングセンスに思わず噴き出してしまった。
これが本名だったら、まさに江戸時代版キラキラネーム。
親はDQNですか?と是非聞いてみたい。

ぷぷ…と笑いを堪えた私を、二人は怪訝そうに一瞥しながら再び会話を進める。


「間者…じゃねぇのか?」


やはりそう思ったのであろう。
新八さんが声を潜めた。


「まぁ…大方そうだろうな。近藤さんもそれをわかってて入隊させたみてぇだ」

「…きっと考えあってのことだろうな」


近藤さんは聡い人だ。何か感じるものがあったのだろう。

そんなことを考えながら、歳さんの手前、カラになった盃に酒を足そうかどうか迷っていると、新八さんが片手にもっていた盃をクイッと豪快に傾け、スッと立ち上がった。


「んじゃ…ご挨拶変わりに手合わせでも頼んでくるか!わりぃ、由香ちゃん。また今度な!」


その顔は何か楽しいことを見付けた子供のようで。
私は「いってらっしゃい!」と笑顔で新八さんを送り出したのだった。





「…………」

「………ぁ」



私に向かって微笑を浮かべた鬼の副長が隣にいることも忘れて。




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