壬生狼と過ごした2217日

□間者と武士と百姓と
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井戸から水をくみ、その場でバシャバシャと顔を洗っていると、背後から「こんにちは」と言葉を投げ掛けられた。


「ふぇ…?」


聞き慣れない声に思わず声が裏返り、慌ててそばに置いておいた手ぬぐいで顔を拭く。

くるりと振り返るとそこには…


「こんなところであなたに会えるなんて、今日はとてもいい日になるかもしれないな」


ニカッと歯を見せた荒木田さんが立っていた。


「あ、荒木田さん、こんにちは」

「もしかして、さっき起きました?」

「え!?わかります!?」

「ははは!まだ顔が眠たそうだ」

「いや、お恥ずかしい限りです…」


じゃあ…とそそくさとその場を立ち去ろうとする私のに、なぜか荒木田さんは立ちはだかる。


「せっかくだし、少しお話しませんか」

「えっと…」


表面上は断る理由など何もない。
何もないけれど、この人と深く関わってはいけないと脳内が警鐘を鳴らす。
それはきっとこの人が衆道…ゲフンゲフン////!!じゃなくて、この人が間者でほぼ間違いないからだろう。
それに話していて、私が未来から来たとボロが出てしまうかもしれない。
そうと知ったらこの人はどんな反応をするだろうか。
あのはじめくんやら山崎くんでさえ、目を見開いて驚いてたもんなぁ。
はじめくんなんて、ムービーで撮って保存してある歳さんに、一言一句丁寧に反応してたし。
ぷぷ…
その姿がかわいかったのなんの。


「由香さん…?」


荒木田さんそっちのけで思い出し笑いを噛み殺していると、明らかに「おま…!頭大丈夫!?」みたいな言葉と視線を投げ掛けられた。


「あ…ごめんなさい。ちょっと飛んでました」


あはは、なんて、つい墓穴を掘るような言葉を返せば荒木田さんは「はぁ…?」とますます首を傾げたのであった。

どうしよう、なんて言ってこの場を逃げ切ればいいんだろう…
こういう時に限って助け舟を出してくれる人は誰も通らない。
ド、ドラえもーん!って私も叫びたいよ!
なんて思考回路が麻痺しだした頃…


「「!!」」


奥の部屋からガシャーンという音と怒号が聞こえてきた。


「な、なに…?」

「行ってみましょう!!」


いち早く走りはじめた荒木田さんに腕を引かれ、私達は怒号のする奥座敷へと走りはじめた。




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