壬生狼と過ごした2217日

□間者と武士と百姓と
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たどり着いた奥の広間の襖は開け放たれ、私の視界に飛び込んできたのは…

歳さんの胸倉を掴み、今にも殴りかかろうとする勢いの芹沢さん。
そして、そんな殺気立つ芹沢さんに胸倉を掴まれているのに顔色一つ変えていない歳さんの姿だった。


「貴様ら…!なんということを…!!!」

「新見さんには法度に従っていただいただけです」


淡々と感情のない言葉を並べる歳さんに、芹沢さんの背中が大きく震えているのがわかる。


「……こんなことして…ただで済むと思っているのか!!この百姓上がりが!!」

「………」


芹沢さんのその罵倒の言葉にほんのわずか。
ほんのわずかだけど歳さんの眉がピクリと反応したように見えた。


「芹沢さん!!やめねぇか!言葉が過ぎるぞ!!」

「永倉!!貴様も武士の家に生まれた身ならば、こやつらと同等など恥ずかしくないのか!!」


…新八さんは代々、福山藩の江戸定府取次役として仕えた立派な家の長男だ。
本当ならこんなところで刀を振り回しているような立場の人ではないらしいのだけれど。
近藤さんの人柄に惹かれ、好きで一緒にいるんだ!と酒の席で少しだけ聞いたことがある。

でも…
今の言葉からしてやっぱり芹沢さんは歳さんや近藤さんを見下していたんだろう。


「芹沢さんよ、今はそんなことを話してるんじゃねぇだろうが!!」


新八さんは芹沢さんの言葉を無視し、力付くで歳さんから引き離した。

部屋の中はしぃんと静まり返ったが、殺気が消えることはない。
いったい何があったの…?

どうしていいかわからず、ただ皆を見据えるしかできない私の隣で、荒木田さんが「やはり…」と呟き、その場を足早に去っていった。

そしてその様子に気付いたはじめくんは、私をちらりと一瞥するとスッと音もなく荒木田さんのあとを追ったのだった。




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