壬生狼と過ごした2217日

□間者と武士と百姓と
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「……寝坊した………」


さぁビックリ。
気付くとお天道様はもうすぐ空の真上に来ようかという勢いだ。

夕べはすごく暑くて寝苦しかったのもあるし、昼間の出来事が気になっちゃって、いろんなことを想像して夜更かししてしまったからだろうか。

…ちなみに私が思うに楠くんは絶対に"受け"だと思う。
激しいんだろうなぁ…
荒木田さん。
なんて起きてすぐこんなことを考えてしまう私は救いようのない腐女子なのかもしれない。

そういえば、あれからすぐ。
歳さんも近藤さん達と出かけた。
珍しく紋付きの羽織袴を身に纏い、惚れ惚れするぐらいビシッと決め込んでたから、また島原か…と思ってわざとらしく「あら、会津藩にでもお出掛けですか?」と聞いてやった。
そしたらあの男はちらりと私を一瞥すると、ヌケヌケと「そんなところだ」と言いやがった。

あのねぇ、あんたが嘘をつく時の癖…
嘘をつく時に俯き加減に視線を逸らすことくらい、こっちはわかってんですよ。どうせ島原でしょ?せいぜい綺麗な女のよいしょに騙されて鼻の下を伸ばしてくるがいいさ!
このヤリチンが!!!

……って言ってやりたかったけど、そこはグッと堪えた。
感情にまかせて暴言吐くほど私は子供じゃない。
好きな男の女遊びくらい、大目に見てやる大人の女なのサ……、と気取って「そうですか。ではお気をつけて」と見送ってみたものの、本当はイライラして仕方なかったってゆう。

…でもさ、本当に怒れなかった理由はそこじゃない。


目が…
歳さんの目が、壬生浪士組副長の眼だったから。
鬼が見え隠れしている眼だったから。

あながち会津藩に行く、というのも嘘ではないのかもしれないと思ったのだけれど…

結局。
皆が帰ってきたのは、ほぼ明け方に近かった。
眠かったのもあったし、なんだかバタバタとうるさかったから、私はそのまま布団の中にいたんだけどね。


「いい加減起きるか…」


まだ重い目を擦りながら「う〜ん」と伸びをし、私は顔を洗うために井戸へと向かうことにしたのだった。




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