壬生狼と過ごした2217日

□弱い侍強き女
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「お茶、どうぞ。大福も…よかったら」

「おおきに」


お互い無言で湯呑みを手に取り、そっとお茶を啜る。


「………」

「………」


八木さんちの広間を借りて、お梅さんと向かい合って始まったお茶会だけど…

……い、勢いでお茶に誘ってはみたものの、よく考えたら話題がないんですが。
お梅さんは芹沢さんの愛人だけど、正確には菱屋さんのお妾さんでもあるわけで…
まさかこの話題にダイレクトに突っ込むほど私も馬鹿ではない。
うう…でも共通の話題は芹沢さんのことしかないよなぁ…
お梅さんは芹沢さんのどこが好きなの!?…なんてガールズトークをふっかける雰囲気でもないし……
と、りあえずお茶でも飲んで気持ちを落ち着かせよう。


「由香はんは…土方はんの"いろ"、なんよね?」

「ぶごっ…!!!」


思いがけないお梅さんの言葉に啜っていたお茶が気管に入り、盛大にむせはじめる。

ちょ…!!い、いろって……////!!恋人同士…ってことだよね?


「だ、大丈夫どすか?」


慌てて背中をさすってくれるお梅さん…

……ほ、惚れていいですか////

…じゃなくて!!


「ゴホッ…!あ、の…いろ、というかなんというか……////」

「照れんでもよろしおわす。芹沢はんが言うてましたえ。お二人は仲がよろしゅうて」

「せ、りざわさんが…?」

「へぇ。言い合いばかりしとるけど、仲のよい証拠や言うて笑うてましたえ」


芹沢さん、他人には全然興味なさそうに見えるけど…
見られてたなんてなんか意外だ。
そして芹沢さんの目に歳さんと私がそう映ってたことも。

つーか…ここは"いろ"ですとハッキリ言っていいのかわからない。恋人同士とお互い認識しているわけじゃないし、付き合おうなどという言葉もあったわけじゃない。まわりはどう思ってるのか知らないが、ちょっと気持ちが入った身体だけの関係…ゴホン////!大人の関係と言っても間違っていないように思う。


「土方はんて、あの鬼の副長と言われる悪名高いお人やろ?由香はんはあんお人のどこがええんどす?」

「ええっ////!?」


つうかお梅さん!あなたがそれを聞きますか!?私からしたらあの芹沢さんのどこがいいの!?って世界七不思議に匹敵するくらいの謎なんですけど!


驚きを隠せず、お梅さんの方を見るとニコリと優しい笑みを浮かべた。


「悪名高いのは芹沢はんの方なんに、って顔やんなぁ?」

「あ、や、そうですけど…って、いや、違くて!!」

「ふふっ、ええよ。確かに芹沢はんは悪名高いもんなぁ……けど本当は馬鹿が付くくらい純粋で真っ直ぐで優しいんよ」

「………」


それは恋は盲目ってやつですよ、と口をつきそうになったがグッと堪えた。
だってその台詞はまるで…


「もしかしたら由香はんが土方はんを好いてる理由もそれと同じとちゃいますか」


ハッとさせられた私にお梅さんはすべてを見抜いたような優しい顔でそう問い掛けた。


「この国のお侍はんは…みぃんな素直じゃあらしまへんからなぁ。普段は獣になって鬼になって自分を偽ってまで志を通そうとしてはる…。本当の自分は惚れた女にしか見せませんえ」


その見せられた男の弱さに骨抜きにされました、と言って笑ったお梅さんの笑顔はまるで少女のようだった。





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