壬生狼と過ごした2217日
□芹沢終焉
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「うわ…頭いた……」
次の日。
まだ陽も登る前に目覚めた私を待っていたのは、今までに経験したことがないほどの二日酔いと頭痛だった。
ひどい。ひどすぎる…
きっとこんなに体調不良なのは初めてかもしれない。というか、昨夜呑んだ酒の量が尋常ではなかった気がする。
ああ…こんな思いをするんだったら二度と酒呑むのやめよう…なぁんて二日酔いになった誰もがその場では決意するものの、後日、大半の人のその決意が無かったことにされるのを私は知っている。
つーか…とりあえず頭痛がハンパない……
歳さんに石田散薬をもらって飲んでみようかな……
いやいや!!たぶん、いや絶対効かない!!はじめくんはなんだかすげー石田散薬の信者で風邪引いた時も飲んでたみたいだけど、そもそもあれは打ち身用の薬だと調合した本人である歳さんが言っていた。
しかも「打ち身になら、本当の本当の本当に効くの?」と問い詰めてみれば黙って視線をプイとそらされたのだから真実はわからない。
数日して、はじめくんが「熱が下がった。さすが石田散薬」と褒めていたけど、褒めるべきはあなたの白血球だよ。
…なんて。こんなこと考えてる場合じゃないぜ。
とにかく顔でも洗ってスッキリするか。
ん〜…と伸びをしてまだ暗い部屋をよく見回すと、ふとあることに気がついた。
つーか…
いまさらだけど、なんで私、この部屋で寝てるんだろう…
そう、ここは私の部屋ではない。夕べ宴が行われた八木さんの家でもない。
あれ?私、確かいつの間にか寝ちゃって……
ここは…
………ここはどこだ?
ガンガンする頭を抑え、這いつくばりながら襖に向かう。そして手をかけようとした瞬間…
目の前の襖がスパンと開いた。
手が宙を掴み、思い切り倒れ込んだ先にはある男の脚が…
手をつくこともままならず、私の低くて小さな鼻はその脚に直撃したのであった。
「おわっ!!由香ちゃん!大丈夫か!?」
「いたたた…鼻ぶつけた……」
「わりぃわりぃ!まさかここにいるとは思わなくて…大丈夫か!?」
「だ、いじょぶ、です…」
「あちゃ〜、赤くなっちまったな」
見上げた視線の先には焦った顔の新八さんがいた。
つーか…よく見れば新八さんの袴はシミだらけで…それが血だとわかるまで時間はかからなかった。
思わずそれに釘付けになる。
「し、んぱちさん…血、が……」
「血…?あああ!!そうだった!!」
「…?」
「由香ちゃん、近藤さん知らねぇか!?」
「近藤さん?知らな…」
「俺、角屋に泊まって今帰ってきたんだけどよ、八木さん家に酒取りに行ったら…」
――芹沢さんと平山さんとお梅が…
嘘だ。
「今、土方さん達が仏さん達を……って由香ちゃん!!」
芹沢さんと平山さんとお梅さんが刺客に殺された?
…刺客?
刺客が忍び込んで芹沢さん達を殺した?
殺されただなんて嘘だ…
嘘だ嘘だ嘘だ!
けど…本当に殺されたんだとしたら……
刺客はきっと……
思わず部屋を飛び出した私の背中を「今は行くんじゃねぇ!」と、新八さんの声が追いかけてきたが、足は止まることを知らず八木さんの家へと駆け出していた。
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