壬生狼と過ごした2217日

□守るべきもの
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「…お前がいたさぁ、未来って」

「うん?」


二人してしばらく黙って空を眺めていた私達だったが、ふとこぼすように平助が口を開いた。


「お前がいた未来って、斬り合いとかまだあんの?」

「斬り合い…」

「要は皆、刀ぶら下げてんのかってこと」


正直意外だった。
平助が…というか、この時代の人にそんなことを聞かれるなんて。
この時代の人は武士も町人も農民も。すべての人が未来にも刀はあると信じて疑わないと思っているだろうと思っていたから。


「えと…」


この場合、素直に刀ぶら下げてたら銃刀法違反で捕まるぜ?と教えてもいいんだろうか。
確か、壬生浪士組の皆には、未来に刀をぶら下げた武士が存在しないことを知らせていないはず…

……あ。
いや、一人だけ知っている人がいる。

――歳さん、だ。

新見さんが切腹した時に、私の前では歳さんのままでいてほしいと、泣きながら本音を漏らした時…
未来には斬り合いなんかないと言ってしまった気がする。
それを聞いた歳さんが何を思ったのかはわからないけど…

まぁ…私の刀や血への免疫の無さを見れば、未来には武士がいないことを皆は薄々気付いてるのかもしれない。
でもよく考えれば、この時代は、私達の平和ボケした未来のためにあるわけだし…




そう考えたら……

いや、考えたくないけど……

刀と…
それによって散り行く命があっても仕方のな…


「由香?」

「あ…」


やだ、私ってば。なんてこと考えてるんだろう。
いくら平和な未来のためだとは言え、そのために散ってもいい命なんてあるわけない。
ましてやその命を奪っていい権限なんて誰にもない、絶対に。


「大丈夫か?なんか顔色悪ぃぞ」

「ご、めん。えぇと…、刀の話、だっけ」

「ああ。でも…」

「?」

「やっぱ聞くのやめとくわ!」


そう言ってニカッと笑った平助はそのまま縁側に背中をゴロンと預けた。


「聞いちまったらさ、なんだか刀を振るう意味を見失なっちまいそうだからさ!」

「刀を振るう意味…」

「ああ」


平助の刀を振るう意味はなんだろう。
歳さんはロマンのため。芹沢さんは国のため。
人それぞれ刀を振るう意味は違う。


「平助は、」

「ん?」


聞いて…いいのだろうか、こんなこと。
刀を振るう意味なんてあってはいけないと思っている私が。
でも…
聞いておきたい。私がこの時代を生きていく限り。


「…平助が…刀を振るう意味って何?」

「俺が刀を振るう意味?」

「うん」


首を傾げた平助に思わずゴクリと息を飲み、答えを待った。



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