壬生狼と過ごした2217日
□守るべきもの
4ページ/5ページ
「やべ!俺、昼過ぎから巡察なんだ。そろそろ行くわ」
「あ、うん」
平助は、う〜んと伸びをしてニカッと笑った。
「でもよ、久々にお前の顔見れて安心したぜ!もっと落ち込んでっかと思ったけど」
ちょっと弱ってるほうが毒気が抜けていい感じなんじゃねぇの!なんてほざきやがったピュアボーイ平助め。
でも…平助と話ししたらなんだか気がラクになったのも事実だ。
「平助」
「ん?」
「心配してくれてありがとう。なんだか気持ちが軽くなったよ」
「…俺なんかでよけりゃ、いつでも話し相手になってやるよ」
「頼もしいな平助」
「だろ!!」
由香はなんだか子供みたいだな!なんて言って頭をモシャモシャされた。でもそれがなんだか嬉しくて。照れ隠しに「んじゃ、平助兄ちゃんは毛も生えてるの?剥けてるの?」ってからかえば、平助は再び顔を真っ赤にして「あ、当たり前だ////!!」と言い放った。
くそ、かわいいぞ、平助兄ちゃんてば。
「ったく////!!じゃあ、行くからな!」
「あ!待って!!」
「ん?」
これを聞いていいだろうか。聞かないほうがいいかもしれない。せっかく少し軽くなった気持ちがまた重くなってしまうかもしれない。
でも……
「一つだけ聞きたいんだけど…」
「?」
「平助は…、芹沢さんが殺されたのも仕方ないと思う?」
「………」
空気が少しだけ緊張を持ったものに変わったのがわかる。
きっと平助は知ってる。芹沢さん達を殺した犯人が誰であるかを。そしてそれは長州ではなくやっぱり…
だとしたら平助も口では色々言ってたけど…
「…奪われていい命なんてあるもんか」
「え?」
「いや、なんでもねぇ。わりぃけどやっぱまた今度な!巡察間に合わなくなっちまう」
「う、うん。頑張ってね!」
「おう!じゃな!」
片手を小さくあげた平助は、そのまま小走りで廊下を駆けて行った。
『奪われていい命なんてあるもんか』
低くて小さな声だったけど、彼は確かにこう言った。しかも眉間にシワを寄せた難しい顔で。
もしかしたら平助も私と同じで思うところがあるのかもしれない。
「はぁ……」
ふと見上げた空は今にも泣き出しそうな灰色で。
なんだか私の心の色のようだよ…
なんて、柄にもなく物思いにふけってみたり。
でも…本当、平助のおかげで少し気持ちラクになった気がする。
ありがとう!平助にぃちゃん!!
…しかしあの真っ赤な顔の平助ってばかわいすぎだろ。
「…よし!久しぶりに化粧でもするか!」
こんな時は市中にでも繰り出そう!
そう思ってピシャリと頬を叩き、私は部屋へと踵を返したのであった。
廊下の角に男達の影があったことなど知らずに。
.