壬生狼と過ごした2217日
□泣いた分だけ笑えばいいんだ
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う〜ん…
この赤いのもなかなか可愛い…
でもやっぱこっちの水色のほうが可愛い、かな。
「お嬢はん、かいらしいさかい、なんでもよぉく似合いますよって」
「うん、知ってる」
小間物屋の店主の歯の浮くようなお世辞にわざとそう言えば「へえ!!」とめっちゃ驚かれた。
…そこまで驚かなくても。ちょっと傷ついたよ、ねぇ。
まぁ…欲しくてもお金なんか無いんですけどね!!と言ったら今度は店主はどんな顔をするのだろうか。
「あれ、由香さん」
再び熱心に簪を見ていると、背中に知った声が投げ掛けられた。
振り返ればそこにはふわりと笑った楠くんの姿。
「楠くん!どうしたの、こんなところで」
「野暮用でちょっと」
あぁ、本当にこの子ってば癒される。
強いていうなら江戸時代版小池徹平ってところか。笑顔がたまらなく可愛いのだ。
そういえば楠くんに会ったのも久しぶりかもしれない。
同じ屯所にいるとはいえ、大所帯だからね。
ってその前に私がニートだったから、会うもんも会わなかったのか。
「なんか久しぶりだね。元気してた?」
「はい。由香さんもお元気そうで何よりです」
「元気、なのかな…」
ははは、と力なく笑えばどこまで知っているのだろうか、
「僕…いい甘味屋さん知ってるんです。少し時間ありませんか」
そう言って楠くんは少し眉尻をさげながらふっと笑った。
***
「みたらし二つください。」
ここのみたらしは最高なんですよ!と言って笑う楠くんはなんだか総司くんみたいだ。
…少し前まではこうやって総司くんとも市中に出掛けたりしたっけ。
その後、こっそり屯所に戻れば門の前で鬼の形相をした歳さんが待ち構えてたり。
新八さんと二人きりで盃を交わして怒られた時もあった。でもそれは歳さんのやきもちで…
耳まで真っ赤にした歳さん、可愛かったなぁ…
…思い返せばいつのまにかこの時代の思い出は増えていて。
楽しいこともいっぱいあった。
このまま未来に帰れなくても、壬生浪士組のみんなと…
そして歳さんと。
この時代で楽しく幸せに生きていけるんじゃないかって。
そう思ってた私は浅はかだったのかな…
「いつからこんな風になっちゃったんだろ…」
そう考えれば考えるほど、私の胸は張り裂けそうになった。
「由香さん」
「え?」
名前を呼ばれ、ふと顔をあげれば半開きだった口に押し込まれた甘じょっぱいみたらし団子。
「ね?美味しい、でしょう?」
目の前にはふわりと笑う楠くん。
口の中に押し込まれたみたらしをゴクンと飲み込めば胸の底から溢れ出てくる何か。
それがツツ…と頬を伝い、ハッと気付いた。
「わ、たし…」
「泣きたい時は我慢しないで泣いてもいいんです。すっきりしたら、泣いた分だけまた笑えばそれでいいんです」
由香さんは一人じゃない。僕でよかったらいつでも胸くらい貸しますよ。
照れながらそう言ってくれた楠くんの言葉に胸のモヤモヤがスーッと消えた気がした。
人を…
昨日まで共に過ごしてきた仲間を殺してしまうこの時代の人に、壬生浪士組のみんなに、嫌気がさしていたのも確か。
私が好きだった歳さんがいなくなってしまったことが寂しくも悲しくもあるのが確か。
そんなみんなを受け入れることができなくて…一人ぼっちになってしまったと感じていることも確か。
だから楠くんの、一人じゃない、という言葉がすごく、すごく嬉しかった。すごく、すごく救われた。
「あ、りが、とうッ…」
一度溢れ出した涙はそう簡単には止まってくれなくて。
その間、楠くんは優しく私の頭を撫でてくれていたのたった。
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