壬生狼と過ごした2217日

□正義の味方は破天荒
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キン!と、甲高い金属音が辺りに響き渡る。


すごい…、この男。
両手に刀を持って、両側の二人からの刀を受け止めてる…
一歩間違えれば斬りつけられて死んじゃうのに、余裕そうに笑みまで浮かべて…


「知らざあ言って聞かせやしょう!!」


男は大声でそう言いながら、片側の男の刀を振り払った。
驚いたのは野郎ども。面白いくらいに目を丸くしてる。
でもこの男…
冗談抜きに素人目の私から見ても本当に強い…!!きっと総司くんと並ぶ剣の腕前の持ち主なんじゃないか…
そして綺麗。刀の軌道がとても綺麗だ。
これは私の勘だけれど…
きっとこの人の剣は斬る剣ではない。
守る剣…なんだろう。


「生まれも育ちも長門は長州!剣の腕前、かの有名な柳生新陰流免許皆伝!」


男の勢いはとどまることを知らない。
野郎を振り払ったかと思えば、今度は素早く相手の懐に刀の柄を押し込ませた。途端に膝から崩れ落ちる野郎。
どうやらこの男。剣だけではなく武術もイケると見た!


「長州の奇才、吉田松陰師と仰ぎ 人はみな、久坂とともに松下村塾双璧と呼ぶ!」


残る野郎はあと三人。
そしてもう片方の男をなんと一発の蹴りで沈めた。

すごい!!なんだ何者だこの男!?
こんな無駄のない爽快な動き、ドラマでも見たことないぞ!?
相当ケンカ慣れしてるのか…
それとも天性のモノなのか…
とにかくすごい!!
まるで誰もが憧れるスーパーマンみた…


「 狙った女は股開かせるまで逃がさない!」


……は?この男、今変なこと言わなかった?

……

………いやいやいや!!言った、言ったよねぇ!?言ったよねぇ!?若干、ストーカーちっくでスーパーマンには似つかわしくない卑猥な言葉、言っちゃってたよねぇ!?


そんな私の心の動揺を知ることもなく、男はあっという間に残りの二人の野郎をも地面に顔をつかせたのだった。
そしてツカツカと私の前にやって来たその男。
まるで歌舞伎役者が決め台詞を言うように中腰のまま、ダン!と一歩足を踏み出しバッと片手を広げ、息を大きく吸った。


「泣く子も黙る奇兵隊総督高杉晋作たぁ…俺がぁことだぁ!!」


……シーンとなる男と私の空気。
男はわたしが何か言うのを待っているのか、その格好のまま笑顔を浮かべて動かない。

ど……、どどどうしよう!?なんか返事しなきゃ!!ほら、早く返事しないと男の腕がぷるぷる震え出してきたよ!ツラいんだ、この体勢が思ったよりツラいんだ!!
早く!返事をしないと…!
てかなんで私がこんなに焦らなきゃならないんだ!?絶対無駄な労力の気がするぞ!?

結局、まわらない頭で考え、咄嗟に出た言葉は…


「…あ、はい」


その私の間抜けな一言に、男はまるでコントのようにズザザザー!と転んだのであった。



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