壬生狼と過ごした2217日
□正義の味方は破天荒
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「ちょ、だ、大丈夫ですか!?ええと…なにさんでしたっけ?」
「おい!!今、高杉晋作だと言っただろう!!お前、人の話聞いてないのか!?」
「いや、あの、狙った女はなんとやらっていう言葉に度肝を抜かれたっていうか…引いたっていうか…」
「ひいた?ひいたってなんだ!?」
「と、とにかくその台詞は抜いた方がいいですよ!」
ズイッと言いよられ、慌ててはぐらかせば男は腕を組み、「うーん、そうか?」と首を傾げた。
…な、なんだろうこの男の雰囲気は。
絶っっっ対に激しい性格と見たぞ。
なんてこったい。正義の味方は破天荒!
「それよりお前!大丈夫だったか?」
「あ、大丈夫です。ええと、高杉さんのおかげです!ありがとうございました!」
深々と頭を下げ、パッと顔をあげれば高杉さんの顔が目の前にあり、思わず「ひっ」と小さな声が出てしまった。
「……お前。どこの生まれだ?」
「へ」
突然の質問と向けられた鋭い眼光に思わずたじろいだ。
…高杉さんになら、未来から来ました!なんて言っても、おお、そうか!ようこそ江戸時代へ!…なんて言ってくれそうだけど、さすがに初対面じゃまずい。
新選組のみんなにも最初は信じてもらえなくて、なかなか大変な思いしたもんね。
当たり障りなく「江戸の方です」と言えば、高杉さんは一瞬間を置き、「ほう」と答えただけだった。
…なんだったんだろう、一体……
「お前、これからどこに行くんだ?」
「えっ?」
「夜道の女の一人歩きは危ないぞ。俺様が送っていってやる!」
「…あ、ええと……」
言葉につまった。
本当に…これからどこに行こう…
夜になるたびこんなことが起きるようじゃたまったもんじゃない。それに今日は高杉さんが助けてくれたけど、次はヤラれるかもしれない。
でも…
屯所にはもう戻れない。戻りたくない。
宿に泊まろうもお金もない。
再び押し寄せてきた現実に自然と頭が垂れた。
「お前…もしかしてやさぐれか?」
「やさぐれ…?」
知らない言葉にふと顔をあげる。
「まぁ、家出人ってとこか!」
「家出人…」
…この時代に私の家はない。
屯所だって私の居場所はなかったし、家出人とは少し違うけど……
でも説明のしようがない。
コクンと小さく頷けば、目の前の高杉さんは予想に反してフッと笑った。
「そうか…!なら俺と同じだな!俺も先日脱藩してきたんだ!!」
…その笑顔に思わず見とれてしまった。
だってすごく真っ直ぐな笑顔で…
こんな時でもイケメンセンサーが働いてしまうのだから、私って本当に駄目な子。
でもいいんだ。これでこそ私!
「なんだ!俺に惚れたか!!」
「あはは、少し惚れました」
そう冗談を言えば、高杉さんは少し顔を赤らめ、ピクリと動きを止めた。
ああ、自分で言ったくせになんだかかわいい人。
「じゃあ藩邸に来るか!」
「はんてい?」
「ああ!長州藩邸に」
今度は私の番だった。
ちょうしゅう、という言葉に思わず身体が固まった。
まさか…長州?
高杉さん、長州の人なの?
そういえばさっき、生まれも育ちも長門は長州、とか言ってたかも…
「よし、行くぞ!」
高杉さんは私の返事を聞くまでもなく、そのまま手を握るとスタスタと歩き始めた。
半ば引きずられるようにだったけど…
私はそのまま高杉さんと塀の中に見えた屋敷に足を踏み入れたのであった。
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