壬生狼と過ごした2217日
□正義の味方は破天荒
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「楽しそうなことしてんじゃねぇか」
声の主を探し、野郎どもと頭上を見上げれば、ぽっかりと浮かぶ月をバックに塀の上で男が静かに笑っていた。
誰…?
「誰だ貴様は!」
「そこで何してる!」
さっきまで私によってたかって群がっていた野郎どもが刀の柄を握り、一斉に塀の上の男に向き合う。だが男は臆することなく豪快に笑った。
「何してるだって?そりゃこっちの台詞だ!!」
そう言い放ち、地面へと飛び降りてきた謎の男。
髪はこの時代には似つかわしくない短髪。
奇抜とも言える派手な着物を身に纏ったその男は、思わず背筋がゾクリとするような不敵な笑みを浮かべた。
殺気とは違う…何か人を惹き付けるようなそんな眼光を放つ。
ただ者ではないオーラを放つその男に、私は目が釘付けになる。
どうやらそのオーラを感じとったのは私だけではなかったようで、まわりの野郎どもが怯んだのがわかった。
「くっ…!貴様、名を名乗れい!」
「無理矢理女をヤッちまうような男どもに名乗る筋合いはない!!」
「何!?」
男の挑発とも取れる言葉に、野郎どもが次々と刀を抜いていく。
そのすらりと抜かれた刀に、サーッと血の気が引いた。
握りしめた手にグッと力が籠る。
…またここでも、殺し合いが始まるのか…
諦めと絶望にも似たその感情に思わず身体の力が抜け、私はその場に座り込んだ。
男はそんな私にチラッと視線を寄越すと、今度は安心できるような笑みをフッと浮かべながら一際大きな声で叫んだ。
「でもまぁ…、そんなに俺の名前を聞きたいなら教えてやるぞ!!」
そう言って抜いた刀は、月の光に反射してキラリと鋭い光を放つ。
あ…
なんだかこの男の刀は綺麗。
色で例えれば、まわりの野郎どもの刀は暗黒色だけど、この男の刀は真っ白、だ。
なんでだろう…
何が違うんだろう…
そんなことを思いながら男の刀に見とれていると、野郎どものうちの二人がその男に向かって走り出した。
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