壬生狼と過ごした2217日

□覚悟が決まりゃ腹が据わるってもんだ
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布団に身を沈めた私の心はだいぶ軽くなっていた。

人の命を容易に奪うことに理解を示したわけではない。戦いに理解を示したわけではない。
ただ、時代、なのだ、と。
抗うことのできない時代の流れ、なのだと。


『どんなに立派な志を持っていたって、死んだらそこで何もかも終わりなんだ』


高杉さんのその一言は、私の考えがただの綺麗事だと気付かせるには充分すぎる一言だった。

この時代にも私のように命の奪い合いはしたくないという人もいるだろう。平助だって本当は無駄な命の奪い合いはしたくないと言っていた。でも現実はそんな人ばかりじゃない。戦いによって己の正義を貫く人もいる。だから平助も刀を振るうのだと。未来の日本の平和のために。

この時代で生きていくには、少しずつでもこの現実を受け入れなければならない。未来のためにと戦う人を否定してはいけない。目を背けてはいけない。
それが…この時代の人の"生きざま"なのだから。




そう思えば思うほど歳さんが無性に愛しく思えた。彼も必死なのかもしれない。

……あの男は優しい男だ。
律儀で…
実は冗談も通じないくらい真面目で……
驚くくらい純粋で…
一本気が通ってて…
誰よりも男らしくてかっこよくて…

他人のことばかり考えて、自分は傷を作ってばかりだと総司くんが言っていた。

もしかしたらあの男は人を斬るたび、自分に一つずつ傷を作っているのかもしれない。



…――歳さんに逢いたい


あの男の生きざまを隣で見ていたい。
そばにいたい。
…覚悟が決まった。この時代で生きていくことに。



明日、屯所に帰ろう。
でも歳さんは…
皆はこんな自分勝手な私を再び受け入れてくれるだろうか。


心に揺らぐ不安をかき消すように瞼を閉じれば耳に届く、自室で弾いているのだろう高杉さんの三味線の音色。
その音色に導かれるように私は深い眠りへと落ちていった。









このあと…
あの男とこんな形で再会することなど知らずに。




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