壬生狼と過ごした2217日

□ある男との再会
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***


「……というわけで、由香は俺の妾になったわけだ!」

「なってません!!この浮気者!!」

「ははは!!照れるな!口吸いを交わした仲だろう!!」

「馬鹿////!!あんなの交わしたなんて言えないっつーの////!!」


高杉さんはご丁寧に私が未来から来たことはもちろん、歳さんと男女の関係があったことまですべてを広戸さんに話した。

高杉さんをポカポカと殴る隣でボー然としている広戸さん。


「…馬鹿な。その話を信じろとでも言うのかい?」


広戸さんの反応は正しいと思う。信じてくれた新選組の皆や、高杉さんの方が少しおかしかったのかもしれない。


「私は信じられないし、信じてやる必要もない。晋作。彼女は新選組の間者だと捉えるのが当たり前なのではないかい?」

「小五郎!だからお前は頭が固いと…」

「今はそういう話をしているのではない。第一、なぜ長州藩邸にいる?別にここでなくても遊廓あたりに身を沈めればいいだろう?うちが彼女の身の回りの世話をする義理などまったくないはずだ」


広戸さんの言うことは筋が通りすぎていて、私はもちろん、高杉さんも反論することができなかった。
そう、だよね。広戸さんだけじゃない。他の長州の人にだってそう思われることは間違いないだろう。

思わず唇を噛み締めれば、広戸さんは笑みを浮かべたまま私を見据え、そっと口を開いた。


「由香さん。君はさっさと新選組の元へ帰りなさい。でなければ……私が彼等の仇討ちをしてもいいんだよ?」

「…!!」


それはとてもとても冷たい声で。感情がまったくない声だった。
人ってこんなにも感情を"無"にできるんだ。
そう思ったと同時に、広戸さんから静かな殺気を感じた。
歳さんの殺気が"激"だとすれば、広戸さんの殺気は完璧な"静"だ。だけど鋭さが潜んでいて、その殺気だけで倒れそうになる。


「…おい、小五郎。仇討ちとはどういうことだ?」


間者のことを何も知らないと言っていた高杉さんが広戸さんに詰め寄る。けれど、広戸さんは私を見据えたまま口を開かない。



……広戸さんと楠くんはただの同僚という感じではなかった。
高杉さんは長州でもトップの人だ。
そんな上の立場の高杉さんに、広戸さんは同等に…いや、それ以上に……


…もしかして
もしかして広戸さんが………


「…広戸さん。もしかしてあなたが…あなたが楠くんを間者として新選組に送りこんだ張本人、ですか? 」

「……ふふ、なかなか勘が鋭い娘さんだね」

「じゃあ…、やっぱり…」

「その通り。楠だけではない。御倉も荒木田もすべて私の差し金だ。それと…せっかくだから教えてあげよう。私の名は京浪士広戸孝助ではない。長州藩士桂小五郎だ」


桂、小五郎…
この人が黒幕…
楠くんを…
死に追いやった張本人…



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