壬生狼と過ごした2217日

□お団子にはお茶がつきもの
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屯所に戻ってから早数日…

のこのこと戻ってきた私を責める人は誰一人としていなかった。
近藤さんに至っては「よく戻ってきてくれた!!」と涙目で抱きしめてくれたほど。

新選組の人達は気さくでいい人も多い。ま、それは身内に対しての話だけれど。
でも、そんな皆のおかげで再びすんなりと新選組の仲間内に入ることができた。

また屯所でののほほんとした生活が始まったわけだけれど、そんなお気楽な私に対し、皆はまだ市中で長州の残党狩りをしているようだった。
どうやら京にとどまってもいいと許可がおりた長州の人はほんの僅かな人しかいないらしく、それ以外の長州の人は捕縛の対象となるらしい。
高杉さんも脱藩してきたとは言っても長州の奇兵隊の総督を務める人物。そして京にとどまることを許されていない身。
もし京で見つかればただじゃすまない。本人もそれを知っているはずだろうに、市中を出歩くなんざぁ、たいした玉だなと歳さんが言っていた。


しかし歳さんは意外にも嫉妬深い。
どうやら今まではものすげー我慢して飄々とした男を演じてたみたいだけど、気持ちがガッチリ通じあった今、奴は遠慮をすることがまったくなくなった。
未だに「高杉とどこへ行ったんだ?」とか「てめぇ、本当に何もなかったんだろうな?」とか蚊の鳴くような声でボソッと聞いてくるからたまったもんじゃない。お前はどこぞの中学生かと。
そのくせプライドだけはエベレスト級に高いときたもんだから、扱いはぶっちゃけ大変だ。

ま、私だけが知ってる鬼の副長の素顔だと思うとなんだか逆に嬉しいなんて、そんな風に思ってしまう私もなかなか重症なんだろう。
恋は盲目。怖い怖い。


「…さて、そろそろ起きるか〜…」


朝寝もいいところ。
朝早く巡察に出掛けた歳さんを見送り、二度寝をしていた私は布団の中からゴソゴソと這い出した。



「野村くん、いるか?」


それと同時に襖の向こうから聞こえた一段と通る声。
この声は近藤さんだ。
どうしたんだろう?部屋に訪ねてくるのなんてとても珍しい。なんかあったのだろうか。

…なんて考えている暇はない。


「いますけど、ちょっと待ってください!寝起きなんで!!」


私はそう叫ぶと急いで飛び起き、乱れた浴衣を整え、手元にあった羽織に腕を通した。

「急がないでいいぞ!」とくつくつと笑う近藤さんの声が聞こえる。
いやいや、局長を待たせるわけにはいかんでしょ!
髪の毛はテキトーでいいやと手櫛で一纏めにし、「お待たせしました!」と襖を開ければ、近藤さんは縁側に腰かけながら「お!突然すまんな」と笑っていた。



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