壬生狼と過ごした2217日
□物好きですがなにか?
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「…どっこらしょっと」
「なんだ?どっかの婆さんみてぇだな」
「いいんです。この時代だと年増ですから」
そう言って肩をトントンと叩けば、隣からは「中身はてんで餓鬼のくせにな」と小さな笑い声が聞こえてきた。
うるせーやい。あんたの方がてんで餓鬼だろーが!なんて思ったけどそりゃあ口が裂けても言えねぇって話ですわ。
屯所から10分も歩かない距離のところにある甘味屋、駿河屋さん。
軒下に置かれた長椅子に腰を下ろす。
ここは総司くんお気に入りのお店だ。何度か連れて来てもらっているうちに、私もお気に入りの店となった。
それは甘味がおいしいというだけではない。他にも理由がある。
「何になさいましょ」
「ええと、みたらし一つ。あ、歳さんは?」
「俺は茶でいい」
「へぇ、おおきに。今日は非番どすか?」
「ああ」
「毎日お勤めご苦労さんどすなぁ。今日はお嬢さんとゆっくり骨を休めてください」
京の人では珍しく新選組の面々と気軽に話してくれる店の奥さん。
にっこりと優しい笑みを浮かべながらコポコポとお茶を注いでくれる。
この奥さんはすごくいい人で、男所帯の中にぽつんといる私を何かと気にかけてくれていた。
最初は総司くんと付き合ってるって勘違いしてたみたいだけど、最近は歳さんと私がそういう関係だっていうことに気付いたみたい。
「そういや最近、沖田はんはお見えにならんけど、忙しいんどすか?」
「総司くんは今、山南さんと大坂に出てるんです」
「へぇ。大変なんやねぇ」
少し前に、総司くんと山南さんは一番隊を連れて大坂へと向かった。
私に対しての名目は資金の調達、ということだったが、どうやら長州の残党狩りが本当の理由らしい。
別に隠す必要なんてないのに、総司くんや山南さん、平助あたりは私に残党狩りのことは黙っていた。ま、狭い屯所。耳に入ってくるのも時間の問題なんだけどね。でもその気遣いが少し嬉しかったりもした。
「いつ頃戻ってくるんやろか」
「う〜ん…歳さん、いつ頃なんです?」
「なぜそんなことを聞く?」
「実は……沖田はんに紹介したい人がおってねぇ」
紹介したい人…
そういうところに勘が鋭い私が来ましたよ!
ふふふ、と口元を隠しながら「直接、局長はんに話を持っていってもええんやけどねぇ」なんて笑う奥さんに、思わず身体を乗り出した。
「もしかして、縁談、とかですか!?」
「縁談なんてたいそれたことじゃないんよ。ただ、ええお嬢はんがおるんやけどっちゅう話」
「えー!!いいんじゃないですか!!総司くん、きっと彼女いないし!」
「かのじょ?」
「あ!や、ええと、恋人?いい人?いないだろうし!」
やべ、と歳さんの方をチラリと見れば、ものすげー冷たい視線を私に向けた。
ちょ、それが愛する女に注ぐ視線かい!?
「土方はん、どうやろ?沖田はんに会うてもらえんやろか」
「……そうだな。伝えておく」
そうだな。伝えておく。……って、あんた、しれっと興味なさそうにお茶なんか啜ってるけど、そこはもっとノリよく返事するべきでしょ!!「よし!俺に任せとけ!!」みたいなさ?
「私からも総司くんに伝えておきます!」
「おおきに!お願いね!」
そう言って奥さんは「ほんだらこれおまけや」と、みたらしをもう一本つけてくれたのだった。
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