壬生狼と過ごした2217日

□ゴミはすぐにゴミ箱に
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「…尚々、拙義共報国有志と目かけ、婦人しとひ候事……」


はじめくんから蚊の鳴くような小さな声で歳さんが書いた手紙が読み上げられる。

手紙に目を通し始めた時の気まずそうなはじめくんの顔。
それを見た瞬間、その手紙の内容が私には聞かせたくないものなんだと瞬時にわかった。

でも…
そうなるとどうしても読みたくなるのが人間の性。
それがまた大好きな歳さんが書いたものだと尚更だ。


「はじめくん。悪いんだけどその言葉のままだとよく意味がわからない。私にもわかるように読んでくれるかな」


この時代の文字が読めない私に、わざと手紙の原文のままで読んでくれてるのもはじめくんの優しさだとわかってる。
でも…


「はあぁぁ……」


はじめくんは、笑顔を作ったままそう言った私の言葉を聞いて、この短時間でもう何回目かわからない溜息をつくと、もうどうにでもなれと言わんばかりに再び手紙を読み上げはじめた。


さぁ、手紙にはなんて書いてあるのか。






「『……あと私達が報国の士であるのに目をつけては、女性が慕ってきて、手紙に書ききれません」





……は?





「…とりあえず京都には島原の花君太夫に、天神や一元、祇園ではいわゆる芸妓と呼ばれる女性が三人くらいいて、君野には君菊や小楽という舞妓、大坂新町に行くと若鶴太夫の他にも二、三人いるし、北の新地ではたくさんすぎて書ききれないので、とりあえずこれだけ書いておきます。」


そこまで一気に読み上げたはじめくんは、手紙の内容に驚いて目を丸くした私をチラリと一見すると、ゴクリとノドを鳴らす。

そして小さな声で…しかしハッキリとこう言った。





「ほ…報国の…心を忘るる婦人かな」

「…………」

「………歳三、如何のヨミ違ひ』……い、以上…だ」

「…なにそれ。どういう意味。特に最後の俳句みたいなやつ」

「……ほ、報国の志も、女性にばっかり気がいっちゃって忘れちゃいそうだよ……なんちゃって……」



バリバリバリッ!!!!



「!!」


歳さんが最後に書いた冗談に聞き取れない冗談を聞いた瞬間。
はじめくんが震える手で持っていた紙をひったくり、ものすげー勢いで破りました。破りましたよ、もう。
そして辺りに撒き散らしましたが何か?


「……由香」

「はじめくん。ありがとう、読んでくれて」


額に浮き出てきてるであろう青筋をピクピクさせながら、オロオロするはじめくんに精一杯の作り笑いを浮かべた瞬間。


「…なにしてんだ?おめぇら」


スパンッと勢いよく襖が開き、今から私に血祭りにあげられるだろう張本人がノコノコと巡察から帰ってきたのであった。



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