壬生狼と過ごした2217日

□坊さん走る江戸師走
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「あ…そうですか……」


くそ、なんだか恥ずかしい上に男に殺意を持ったのはぜってーに気のせいじゃないだろう。


「俺ぁ正月のしきたりだの、いろいろ教えてやる暇がねぇからよ、道中山南さんに教えてもらえ」

「そうですね。歳さん、先生って柄じゃないですもんね」

「てめぇ…」

「ははは。で、どうでしょう?お付き合い願えますか?」

「あ、それはもちろん!…てゆーか、くいつみ、ってなんですか?」

「おめぇ、食積知らねぇのか?」

「おや、未来には食積はないのかな。正月料理なんですが」


くいつみ、なんて正月料理、聞いたことがない。でもあれかな?もしかしておせちのことだろうか。


「未来ではくいつみ、とは言いませんが、もしかしたらおせちの事かもしれません。黒豆、数の子、昆布とか」

「そうですそうです!海老や鯛などもね」


やはりくいつみとはおせちで間違いないらしい。「未来にも食積の名残があるなんてなんだか嬉しいな」と山南さんは笑った。

気が付けば暦はもう12月。あと1ヶ月足らずで新年を迎えようとするのだから、月日が流れるのは本当に速いものだ。

…文久3年の3月。この時代にタイムスリップしてから早9ヶ月がたとうとしている。
本当にいろんなことがあった。
あとどれくらいこの時代で過ごすことになるのか。もしかしたら私の命はこの時代で燃え尽きるのかもしれない。
でもここには大好きな皆がいる。
大好きな歳さんがいる。
だからきっと大丈夫!

私はここで生きていく!


「京で初めての正月だからね。近藤さんもだいぶ張り切ってて、正直敵わないよ」

縁起担ぎとしゃれっ気が大好きなのが江戸っ子の心意気だからね。
そう言って眉を下げた山南さんもなんだかとても楽しみにしているようだ。


「景気付けに豪勢なのを頼んまァ」


いつもは顔面凶器の歳さんもなんだか楽しそう…とか言うとゲンコツくらうから言わないけど。
よし!ならば私も精一杯お手伝いしようじゃないか。


「任せといてください!ちょっと私、化粧直ししてくるんで先に玄関で待っててくださいね!!」


そう意気込んで自分の部屋へと走りだせば、その背中を「急がないでいいですよ」という山南さんの優しい声が追いかけてきた。

…「早くしろよ」なんて憎たらしい声も聞こえてきたような気がしたが、きっとそれは空耳だろう。あん畜生め。


…さて、久しぶりに歳さんじゃないメンズとデート。
念入りに化粧直ししてバチッと決めた私ってばなんて肉食系なのかしらん。



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