壬生狼と過ごした2217日

□坊さん走る江戸師走
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「ぶはっ…!!ゴホッゴホッ!!」

「あ!わりぃ!由香ちゃん下にいたんだったな!!」

「もうっ…!頼みますよ、新八さん!!ゴホッゴホッ…!!」


八木さんちのとある大広間。
煤竹(叩きのようなもの)を持った新八さんが容赦なくそれを振るもんだから、彼が登る梯子を押さえている私にこれまた容赦なく煤や埃が降りかかり、思わず口を押さえ咳き込んだ。


「おーい、由香。そっち終わったらこっちも頼む」

「へいへい!ったく、人使い荒いんだから…」


今日は師走の13日。
この時代では幕府が1日から12日の間に煤払いを行い、13日に納めの祝いをするからとかいう理由で、庶民をはじめ一般ピープルはこの日に大掃除やら、正月を迎える準備をするのが決まっているのだそう。
だから今日は巡察自体がお休み。隊士総出で屯所の大掃除をしているのだ。

年末の大掃除なんて未来にいた頃はほとんどしなかったな。せいぜい水回りの掃除くらい。
しかし、部屋は毎日掃除機かけてるんだから大丈夫でしょ、という私の考えはこの時代じゃ通用しなかったようだ。
そういえばあれだよね、次の日テストっつー時に限って部屋の掃除をしたくなるのはなぜだろうね。そんなお馬鹿さんはぜってー私だけじゃないはず。

それにしても朝一から始めて、もうお昼近く。いったいいつになったら終わるのやら…
いい加減、飽きてきたし疲れてきたのが本音だ。


「おーい!野村くん!ちょっとこっちに来てくれないか!!」

「はーい!近藤さん、ただ今!」

「おわっ!!由香ちゃん!急に手を離すんじゃ…!!」


押さえていた梯子から手を離し、近藤さんのいる中庭へと駆けていけば、後ろで「おわァァァ!!!」という叫び声とともに何かが落ちる音が聞こえてきたがきっと大丈夫。
その張本人は筋肉という名の鎧を着ているからね!
ぶっちゃけ、デカイケツを眺めてるのは飽きたんだぜ。私はもっとプリッと引き締まった小さなケツが好きなのさ!
とか言ったら絶対怒られるよね、うん。


「近藤さん!お呼びですか?」

「おお!野村くん!すまんがこっちを押さえててくれるか!」

「え?この竹ですか?」


近藤さんが鉈のようなものを手に相手どっていたのは、どこから採ってきたのか物凄く大きくて太い竹だった。
近くにはワサワサと松の枝が散らかっている。
竹と松と正月…これってもしかして…


「これ、門松、ですか?」

「そうだ!大きいほうが縁起がいいからな!」


そう言って笑う近藤さん。
しかし…いくらなんでもでかすぎじゃね?竹の大きさのわりに、松の枝が少ないような…
聞けば、大きいのは縁起がいいほかに"見栄"という人間の欲望も含まれていることを知った。
つーか、この時代にも門松ってあったんだ。
…未来とは違ってちょっと不格好だけど。


そんなことを考えながら竹を押さえ、近藤さんと二人、立派な門松を作り終えた私は、真冬だってのに汗ダラダラ。
最近呑んでばっかりだから、いいデトックスになるかなぁなんて。



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