壬生狼と過ごした2217日

□誰だって恋をする
1ページ/2ページ




「歳さん、お茶をお持ちしました」

「――ッ!!」


二人分のお茶とお団子を持って襖を開ければ、部屋で文机に向かっていた歳さんの背中が明らかに慌てふためいているのが目に見えた。

あれ?あれれ?何してる?まさか勉強机に向かうフリをしてエロ本見ながらにゃんにゃんにゃんっていう年齢でもなかろうに。


「おめぇ、俺が返事してから襖開けろよ!」

「すみません。でも隠れて何をこそこそしてるんです?」


「別に…こそこそなんてしてねぇ!」なんて簡単に嘘をついた男の袴をつい見ればきちんと着ているようだ。
ふむ、にゃんにゃんじゃありませんでしたか。ちょっとホッとしてしまうなんて、なんだか思春期の息子を持つ母親の気持ちがわかった気がするわ。なんて。


「……おい、どこ見てんだ」


私の視線に気付いたのか、息子は、じゃなかった。歳さんは眉間にシワを寄せ、なんだか冷ややかな視線を私に向けた。
わ、酷い。


「いえ、気にしないでください。それよりお茶をお持ちしました。少し休憩しませんか」

「おお、わりィな」

「これ、駿河屋さんの」


駿河屋さんの新商品のお団子なんですって〜。そう言いながら腰を下ろせば、男が一瞬の隙をつき、引き出しに何かをしまったのが視界に入った。
……新選組副長もまだまだ青いわね。
「ほう」なんて、お団子に興味がある演技をしれっとしても、私にはお前のやったことは全部まるっとお見通しだ!!……なんてこれは某ドラマの決め台詞だったっけか。
よし。あとで問い詰めてやろう。だって今は私も駿河屋さんのお団子食べたいんだもの。むふ。


「そういやおめぇ、総司見なかったか?」

「総司くんですか?いえ、」


いえ、見ませんでした。
そう言えば歳さんは呆れたように一つ溜め息をついた。


「最近、非番の時はもちろん、巡察の前にも姿が見えねぇんだ。こんなんじゃろくに話もできやしねぇ」

「…へぇ」

「あん?なんか理由知ってるみてぇな素振りだな」

「え?あ、いや、知りませんけど」

「そうか…まぁ、あいつの事だ。女に溺れてるなんてことはなさそうだしな」


そう言って笑った歳さんだったけど、なんだかドキリとした。
皆、総司に限って、と口を揃える。でも総司くんだって普通の男だ。そして恋仲ではないと言ってはいたけれど、好い人はいる。
溺れる、なんて飄々としてる総司くんにはありえないことだとは思うけど…
でも恋は盲目、なんて言葉もあるくらいだもんね。
今度、遠回しに聞いてみようか。
うん。そうしよう。これも姉のつとめ…っていつから私は総司くんの姉ちゃんになったんだ?いや、あんな可愛い弟いたらウハウハ…じゃねぇや。やっぱあんな腹黒い弟怖いよう!!
……あ〜、なんか最近疲れてるのかもしれない。


「…なぁ、」

「はい?」


妄想中の私を男が呼ぶ。さっきまでとは違った声のトーンに顔を上げれば、いつの間にか縮まった距離。そして妖艶な顔で私の遊びで垂らしている髪をくるくると指に巻き付ける目の前の男。
……まずい。この雰囲気。この妖艶な表情。
最初の甘えた声のトーンに気付くべきだった。


「最近…ご無沙汰じゃねぇか?」

「…歳さん、まだ昼間ですよ」

「かまわねぇ」


そう言って男は着ていた羽織を脱ぎ捨て、慣れた手つきで私を押し倒しすといとも簡単に組み敷いた。
割れた着物の裾からあっという間に手が侵入してきたかと思うと、その手はまぁそれはそれは驚くほどに厭らしい手つきで太ももを撫で回し始める。


「歳さんてば!」

「いいじゃねぇかよ、」


ツツツ…と舌で首を舐め上げられ耳元で「由香…」と囁かれれば、思わず甘い声が漏れた。
こんな真っ昼間。いつ誰が部屋を訪ねてくるかもわからないというのに…
しかし目の前のこの男のスイッチは切れそうにない。まずい。まずいぞおい。このままじゃ私までスイッチオンに…
ああ、でもいいかな。私もちょっとヤリたくなってきた…

どうにでもなれと男の背中に腕をまわした瞬間。


「ああすみません。もしかして始まっちゃいますか」


突如耳に届いたいるはずのない第三者の声に私達の動きが止まる。


「それにしてもお盛んですねぇ、お二人とも」

「そっ…、総司////!!?」

「総司くん////!!!」


聞き覚えのある声に身体を飛び起こせばやはりそこには思った通りの男の姿。


「てめぇっ////!!いつからそこにいやがった////!!」

「ええ〜?歳三さんが由香さんの着物の裾から手を突っ込んだところぐらいかなぁ?」


…おおおお////!!!ほぼ最初からじゃねーですか////!!
恥ずかしい。さすがの私も恥ずかしい。なんだって第三者にアンアン甘い声を聞かれなきゃならんのだ。
でもそれ以上に、普段、鬼の副長と呼ばれる男は恥ずかしかったらしく、あの独特なハスキーで野太い声をスッカリ裏返し、情けない掠れ声で「てめぇっ////!斬られてぇか////!!」と喚いていた。
あああ、もうなんなのこのプレイ。
すっかりその気になってしまった私の下半身はどう納めればいいのかしら。なんて、ゲフンゲフン/////!!!



.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ