壬生狼と過ごした2217日

□☆驚き桃の木山椒の木
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「ああ、そうだ。忘れてたよ」


屯所の門まで見送りに出れば、ふと富沢さんは足を止め、荷物をごそごそとし始めた。
なんだなんだと覗き込めば、彼が取り出したのは一冊の本のようなもの。よく見れば見たことのあるひょろりとした筆跡が表紙を飾っていた。


「これ、為次郎さんから…」


そう言いながら富沢さんが差し出した本を、真っ赤な顔でバッ!と奪い取ったのは、そう。ひょろりとした筆跡の持ち主である歳さん。そして真っ赤な顔のまま吠える吠える…
「持ってきてくれなんて頼んでねぇ////!!」だの「と、富沢さん読んだのか////!?」だの…
今日だけで男の情けない声を聞くのはいったい何度目か。
それにしてもなに?なんなの?
歳さんが真っ赤になって抱え込むなんて、その本て一体なに?

てゆーか、それよりも…


「ためじろう、さん?」


聞いたことのない名前に首を傾げれば、「為次郎さんは歳三さんのお兄さんですよ」と総司くんが教えてくれた。

ええぇ!?歳さん、お兄ちゃんがいたの!!?
そ、そういや試衛館の頃の話はちょこちょこ聞いてても、家族の話なんて聞いたことなかったかも…
そうだよね、歳さんだってああ見えて人の子だもの。両親もいれば兄弟だっている、よね。


「全然知らなかった」

「あれ?そうなんですか?ちなみに歳三さんにはお兄さんだけでなくお姉さんもいらっしゃいますよ」

「え!?そうなの!?」

「確か亡くなった兄姉も合わせれば10人兄弟の末っ子だったはずです」

「じゅ…!!!」


10人!?驚きのあまり開いた口がふさがらなかった。
10人!?10人なんて現代ならば大家族のテレビ番組に出れるレベルじゃないか!!
こりゃ驚いた。こんなに驚いたのは今年になって初めてじゃなかろうか。
しかし歳さんに嫁いだら小姑もいらっしゃるなんて私ドキドキ。なんてことはさておき、歳さんてば末っ子だったのか。ああ、それならたまに出没するわがままなバラガキにも納得がいったわ。あのわがままは末っ子独特のものだったのね、なんて。








***


「ったく…富沢さんの喋り好きは変わってなかったな」


「またな!」と言って屯所をあとにした富沢さんと、途中まで同行すると言って出ていった源さんの背中を遠くに見ながら歳さんが小さくため息をついた。


「あはは、確かに。それよりも」 


まさかその句集が京にまで追いかけてくるなんてね〜。
そう言って総司くんはニヤリと歳さんに視線を投げた。


「うるせぇっ////!!あっち行け////!!」


再び真っ赤になる歳さん。
……なに?マジでなんなのそれ。
気になる…
めちゃくちゃ気になるんですけど。

ぎゃぁぎゃぁ騒ぐ男をじーっと見つめれば、その視線に気付いたのか、男はハッと我にかえったようだ。「な、なんでもねぇよ/////!」と、あからさまに冷静を装ってるけどね。なんでもねぇわけねぇでしょうが!


「…へぇぇぇ……大好きな大好きな私に隠し事、ですか」

「ッ!」

「ああそうですか。そんなもんですよね、歳さんにとっての私なんて。私なんて隠し事一つしてないってゆーのに。そんなもんだったんですね。よぉくわかりました。はぁ〜あ」


わざとらしく打ちひしがれるように大きな大きなため息をつけば、その作戦は成功したのだろう。少しの間をおいて男は「…わかった。夜、俺の部屋に来い」と、私に負けないくらいの大きなため息を一つついた。

よっしゃ!!!
小さくガッツポーズする私の隣で「やっぱり由香さんには敵わないや」と総司くんが呟いたのが耳に届いた。



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