壬生狼と過ごした2217日

□☆驚き桃の木山椒の木
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***


身体の中に男の余韻を感じる。
ああ、今夜は一際激しかったなぁなんて思っていれば、歳さんの妖しい手つきが再び私の身体をまさぐりはじめた。
おいおいマジか。あれだけ激しく突かれて、またすぐ2ラウンドとかちょっと勘弁してくださいよ。


「歳さん」

「んだよ、いいだろうが。昼間だってお預けくらったんだ」


そう言ってまだ渇ききってない私の女の部分に触れ出した歳さん。
…まぁ確かに。私も昼間お預けくらったわけだし、いいか2ラウンド…じゃなくてさ!!
そうだ、そうだよ。昼間と言えばいろいろ思い出したよ。色事に耽ってる場合じゃなかったぜ!!歳さんには聞きたいことがあったんだぜ!


「ちょ、そういえば聞きたいことが」

「…今じゃなくたっていいだろうよ」

「や、あッ……じゃ、あと、で……じゃなくて!!!」


思わず快楽に身を任せそうになったがかろうじて残っていた僅かな理性がそれを止めた。
あぶねーあぶねー。しかし目の前の男は途中で止められたのがよほど気にくわなかったのか、眉間には深いシワが刻まれた。


「…なんだってぇんだ一体……」

「歳さん。昼間、富沢さんに貰った本ってなんなんですか?」


そうだよ。これを聞くために今私はここにいるんじゃないか。すっかりこの男のペースに飲まれてたわ、うん。
私の問いに、男の眉がピクリと動いたのがわかる。みるみる焦りはじめた様子を見ると、それが彼にとってあまり人に見られたくないものかもしれないということがわかった。
でも知りたい。
恋人同士が上手くいくには隠し事をしちゃいけないというデータもあるのよふふふん。


「チッ…覚えてたか」

「チッ…てなんですかチッて。しっかり覚えてますよ。で、なんなんですか、あれは」


ググッと問い詰めれば男はすっかり萎えたのか、ため息をつきなが文机の中から昼間、富沢さんに貰った本を取りだし、私の手の上にポンと投げた。
僅かな行灯の灯りを頼ってそのひょろりと書かれた表紙に目を凝らすが、いかんせん、この時代の文字は読み慣れない。
豊、玉…発、句、集?豊玉発句集?
左下には土方義豊、と書いてあるのが見て取れた。
土方義豊。まさか、まさか。
驚いた表情を浮かべれば、男は諦めたように口を開いた。


「そりゃあ句集だ。豊玉発句集って書いてある」

「句集?……あの、まさかとは思いますが、土方義豊って」

「ああ、そのまさかだ。俺の…句集、だ…」


さぁさぁビックリ仰天。
知らなかった。知らなかった。歳さんが俳句を嗜むなんて。
お、鬼の副長が?バラガキとか言って恐れられてた歳さんが?
そ、そういえば少し前に手紙に俳句とか書いてた時があったな…
衝撃のあまり震える手でパラパラとそれを捲れば、歳さん独特のひょろりとした筆跡が何行も何行も書かれていた。気になる。この男がどんな俳句を詠むのか。しかし文字が読めない。だが気になる。


「あ、あの…ちなみに自信作は…」

「自信作?んなの全部に決まってんだろうが」


男は不敵な笑みを浮かべると、ご丁寧に何句か読み上げてくれた。

……梅の花、一輪咲いても梅はうめ?
え?なにその馬鹿が付くくらい真っ直ぐで正直な俳句は。
俳句を嗜む習慣がない私には、その句の良し悪しがまったくわからない。で、でも、文学的にはあまり秀作と呼べるものではないんじゃないかなぁ…なんて。
でもさすがの私もそんなこと言えない。フルチンで自信ありげに句を詠みあげるダーリンにそんなこと言えない。
だから「どうだ?」と聞かれても「す、すごくいいと思います」としか言えなかったが、なんだかモヤモヤした気持ちが残ったのはなぜだろう。

よくよく聞けば、昼間、文机に隠したものも俳句を書いたものだった。
まぁ、エロ本じゃなかっただけ良しとするものか否か。





「おめぇも今度詠んでみたらどうだ?教えてやるぜ?」


自信に満ちた表情の歳さんは、句集をパタリと閉じて文机にしまうと、再びその手先を私の身体に這わせ始めた。
んんん…なんだか衝撃過ぎてすっかり萎えてしまったんだけどな。
ま、まぁ、趣味を持つことは良いことだよね、うん。


「あはは、じゃあ今度教えて貰おうかな」

「俳句のことなんざ全然わからねぇだろうからな。伊呂波から教えてやんよ」

「あ、でも一つだけなら知ってますよ。ええと…三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい…だったっけ」


以前、高杉さんから詠んで貰った俳句をふと思い出して声に出してみれば、今にも唇に噛みつこうとしていた目の前の男はピタリと動きを止めた。
シーンとなる空気。え?なに?私、なんかおかしなこと言った?


「…てめぇ、それどこで知った?」

「あ、えと…高杉さんがお前にって…」


そう言った瞬間、目の前の男がワナワナと震え始めたのがわかった。
あ。やべ。まずい。なんかわかんないけどまずい気がする。


「と、歳さ…」

「それは俳句じゃねぇ都々逸だ!!それにそのうたは恋のうただ!てめぇ、本当は高杉になんかされただろ!!」

「ええええ!!?さ、されてない!されてないよ!!!」


されてないよォォォ!!なんていう私の叫びは届くこともなく。
結局その晩は空が明るくなるまでおらおらアンアンと攻められたのであった。


それにしても高杉さんが送ってくれたうたが恋のうただなんて。
高杉さんてば私にゾッコンだったのね、なんてニヤニヤしてしまったのは絶対に胸に秘めておこうと思いました。


























かっちゃん=近藤さん

土方は6人兄弟の末っ子と言われていますが、二男二女が乳児の時に亡くなっているので、正しくは10人兄弟の末っ子のようです。

俳句→5・7・5
都々逸→7・7・7・5




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