壬生狼と過ごした2217日

□☆驚き桃の木山椒の木
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総司くんに連れられ広間の襖を開けると、そこにはお茶を啜りながら談笑している歳さん、源さん、そして上座に座る恰幅のいいおじさ…いや、お兄さんの姿。きっとこの人が富沢さんだろう。年の頃は芹沢さんくらいだろうか。
交わる視線に小さく頭を下げればお兄さんは口角を上げ、私と総司くんの方に向き直った。


「やぁ、これはまた可愛らしいお嬢さんだ。もしかして総司の、」

「やだなぁ富沢さん、違いますよ」

「ああ、これは俺の」


総司くんの否定の言葉に重なるように横から口を挟んできた飄々とお茶を啜る下座の男。
俺の!?
俺のなんだい?副長さん!!
冷ややかな視線を送ればその視線に気付いたのか、「だろ?」と言わんばかりの不敵の笑みを浮かべたその男。
……なんだかイラッとしたのは気のせいだろうか。
そんな私をよそに、「そうか!!トシの女か!!ようやくお前も落ち着いたんだなぁ!」なんて豪快に笑う富沢さん。その様子を見る限り、私の男がいかにヤリチンだったかが見てとれますよ。はぁぁ、クソ歳三め。


「あ、ええと、野村由香と申します」

「俺は富沢忠右衛門だ。トシが世話になってるな」

「世話してやってんのは俺の方だよ富沢さん」


………なんだかなんなんですか歳三くん。
まぁね、久しぶりに昔馴染みに会ってね、なんか気張っちゃうのわからなくもないけどね、うん。でもなんなんでしょう、この若干のイライラ。私ってばひねくれた奴なのかもしれない。


「歳さんには何から何まで、それこそ歳さんのムスコさんにも昼夜問わずお世話になっております」


そう言ってニッコリと笑えば、一瞬の間をおいて「てっ、てめぇ////!!」という怒号と「あーっはっはっはっ!!さすがはトシの惚れた女だ!!」という笑い声が広間に響き渡り、総司くんと源さんに至っては飲んでいたお茶にむせかえっていた。

そのパンチのきいた冗談に、歳さんから殺気にも似た何かを感じとったのはこの際無視して、富沢さんはえらく私を気に入ってくれたようだった。
そういや昔からおじさんには気に入られることが多かったな。なんだろう、おじさんを惹き付けるフェロモンでも出ているのだろうか。ただ一つだけ言えることは、おじさんに気に入られて損はない。これだけは確信を持って言えるぜ。
あ、ただし権力者に限る、だけどな。

富沢さんはもともと話好きなのだろう。そのあとは永遠と歳さんの若かりし頃の話や、試衛館の話、またまた総司くんの子どもの頃の話や、その他の試衛館メンバーの逸話など、それはそれは生き生きと聞かせてくれた。
その話は私の知らない話が多かった。歳さんや皆の昔を知ることができてなんだか嬉かったのが事実だ。









***


「おっと、少し喋りすぎたかな。そろそろおいとまさせてもらうよ」


昔話に一通り花を咲かせたあと、富沢さんが名残惜しそうに腰を上げた。
障子の外を見ればいつの間にか日が傾き始めている。


「しばらくは京に滞在なさるんでしょう?」

「ああ。今度はかっちゃんがいるときに邪魔するよ」


はい!是非!なんて喜ぶ総司くんはまるで小さな子どものよう。
富沢さんは絵に書いたようなすごくいいおっさんで、総司くんだけじゃない。皆が彼を慕っているんだと思う。
そして何よりも富沢さんの笑顔は人を惹き付ける何かがあった。しいて言えば近藤さんと同じ魅力を彼は持っている。




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