壬生狼と過ごした2217日

□人はそれを恋と呼ぶ
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もしかして今日、時代が動くんじゃねーかってくらい、幹部をはじめ新選組の一部の皆は慌ただしく動いていた。それはもう、早朝から。
もちろん、中には暇そうにしている平隊士も見かけたが。

歳さんや近藤さんはもちろん、総司くんやはじめくんや左之さん、普段はヘラヘラしているあの新八さんや平助まで眉間に皺を寄せ屯所を出て行ったわけだから、ただの巡察ではないことくらい私にもわかった。山崎くんなんて「何かあったの?」なんて問いかけた私のことを無視してまで走って出掛けて行ったからね。まったく、あのピュアボーイめ。

歴史に疎い私にとって、何が起きるかわからないこの時代。
ただ近々何か大きな事件が起きる。そんなことを予感させる雰囲気が屯所内を漂っているのは確かだ。

が、しかし。
ピリピリとしている新選組の皆とは裏腹に、私はのほほんと日々を過ごしている。

だってだってね、屯所での私の仕事は掃除洗濯、たまに料理だったのに、その数少ない仕事でさえ最近は新人の平隊士が当番制でやってくれちゃうんだもん。だから私の仕事は激減し、本当に本当に時間をもて余しているのだ。もうね、1日が長いことなんの。


「…ふぁ〜あ……」


お日様が真上に昇る頃。
屯所の縁側で大あくびをこぼし、例にも漏れず今日も絶賛暇人である。

手透きの幹部がいればかまってもらったりしてるんだけれど、いつもそうとは限らない。今日のようにその幹部のほとんどが出払ってしまうと、私の暇人ぶりには拍車がかかってしまうのだ。

まぁ、幹部のほとんどが出払うなんてことは滅多にないから、やっぱなんかあったんだろーな…なんて小さな疑問は私の胸中にしまっておくことにしよう。
大きな事件が起きようが起きまいが、とにかく皆、ケガなく無事に屯所に帰ってきてほしい。私が願うのはそれだけだ。

しかし本当の本当に暇である。
留守番組である山南さんにかまってもらおうとも思ったが、昨日も一昨日もそのまた昨日もかまってもらっていたため、先程部屋に行ったら、いい加減山南さんの笑顔がひきつっていた。
まぁね、その笑顔が何を言いたいのかわからないほど私も馬鹿ではないんでね、早々とおいとましましたよ。
だから今は仕方なくぼっちでいるというわけなんだけど。

だけどこのまま時間を持て余して1日が終わるのはもったいない。
さて、どうしたことか……

そんな時。


「酒が無くなった?」

「ああ。確かに残しておいたはずなんだが…」


腕を組み、思案している私の後ろを通る暇そうな平隊士達の会話がふと耳に届いた。
ん?勝手場の酒?酒が無くなった?
なんだなんだとその会話に耳を傾ければどうやら話はこうだった。

先日、平隊士Aくんがなけなしの給金で一升徳利で酒を買った。それを半分ほど呑み、残りは勝手場の棚に置いておいた。そして今朝、夜勤を終え、その残りを呑んで寝ようと棚を覗いたらその一升徳利が空になっていた、と。


「お前さんの勘違いじゃないのか?」

「いや、そんなはずは…」


おかしい、誰かに呑まれたのかも…いや、呑まれたに違いない!…なんて会話をしながら2人の隊士達はその場を去っていったのだけど……


ち ょ っ と 待 て。

酒?勝手場の棚に置いてあった酒?

………あのですね、たぶん。いや、たぶんだよ?たぶん。
私それ……

呑 ん じ ゃ っ た。

初夏にしては肌寒かった昨夜。昨夜は身体を暖めあうダーリンも会合だとかでいないし、どうすっかな、熱燗でも呑んで身体を暖めるか!なんてね、そんなアル中みたいなことを考えてですね、勝手場の棚を覗いてみたんですよ。そしたら不思議。手頃な酒がそこにあるじゃないですか。そりゃねぇ、もう呑むしかない!…と。

…あああ!馬鹿!私ってば馬鹿野郎!!
てっきり新八さんあたりのだろうから大丈夫かと…。
こりゃもう、酒を買ってきて素直に謝るしかない。副長の女ってばサイテーなんだぜ!?なんつー噂がたっちゃったらたまったもんじゃない。

幸いお金ならある。よし、今から買いに行ってこよう!

そう思った私は、化粧をし直すためにものすげー勢いで自分の部屋へと向かったのだった。



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