壬生狼と過ごした2217日

□迷わず行けよ、行けばわかるさ
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ガツンと頭を殴られた気がした。
そうだ、そうだった……

閉ざされた襖の向こうから聞こえた"鬼"の静かだが覚悟を感じ取れたその言葉。

『出来ねぇんじゃねぇ。やるんだ。てめぇが一歩踏み出しゃあなんだって出来んだよ』

…私は何をしてた?何を悲劇のヒロインぶってた?
私が決めたこの時代で生きていく覚悟は…こんなことで崩れ落ちる弱い覚悟だった?違う。私は最初から覚悟なんて出来ていなかった。
『覚悟が決まりゃ腹が据わる』そう私に教えてくれたのは高杉さんだ。
この屯所に出戻ったその時から、この時代で生きていく。歳さんと、新選組の皆と共に。そう覚悟を決めたつもりでいた。
でもそれは覚悟じゃなかった。
私は居場所を提供してくれた皆に甘え、共に腹を据えた気持ちでいただけ。その皆の優しさに気付かず、一人居場所がないだの勝手に寂しいだの悲観していた私は馬鹿だ。大馬鹿だ。
それでも居場所がないと思うならば、自分で自分の居場所を作ればいい。自分が出来ることを、命をかけて精一杯やればいい。
私に出来ることなんて何もない。そう思ってたけどそれは違う。何かに理由をつけてやらなかっただけだ。自分から一歩踏み出さなきゃ、自分の居場所なんて出来るわけない。
皆に甘えてちゃいけない。皆に支えられているだけじゃいけない。
私が一人の人間として、この時代で生きていくために今出来ることは――…


「会津藩との約束は祇園会所に夜五ツ時。うちはそれより一刻ほど前に集合し、小隊に別れ、浪士の潜伏が疑われる場所を一軒ずつ捜索する。くれぐれも祇園会所へは日頃の巡察と同じように向かうように」

「おう!!」


士気溢れる男達の声が広間から廊下まで響き渡った。
まずい。なんかきっと解散の雰囲気。このままここにいたんじゃ、誰か出てきて立ち聞きしてたのがバレちゃう。
とりあえず…自分の部屋に…
それにいい事を聞いた。祇園会所に集合後、一軒ずつ捜索、とか言ってたな。
きっと桝屋さんの仲間を捕まえに行くんだろう。たぶん…たぶんだけど斬り合いになるんだと思う。
なら…私に出来ることは……
怖い…。怖いけどやるしかない。私の存在意義を確かめるために。私の本当の居場所を作るために。

手に持っていたタオルを握りしめ、今度こそ覚悟を決めた私は自分の部屋へと駆け出した。

…こん畜生、やってやろうじゃねぇか!!




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