壬生狼と過ごした2217日
□すべては志のために
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勢いで飛び込んだ池田屋の中はうだるような暑さだ。身体中の毛穴からブワッと汗が吹き出す。
何これ、なんでこんなに暑いの!?皆の熱気!?それとも欠陥住宅かしら!?
がしかし、そんなくだらないことを考えてる余裕なんてなかった。
予想してた通り、表玄関で槍を構えていた谷さんにすぐに進路を塞がれたわけで。
「嬢ちゃん!?こないなところで何やってんねん!!」
さぁ、この第一の修羅場をどう切り抜けてやろうか。ぐずぐずしてたらなんだか平助が追いかけてきそうな雰囲気だぞ。さぁ急げ私!頭をフル回転させるんだ!
「あの…、こ、近藤さんが」
「ああ!?局長がどないしたん!?」
「こっ、近藤さんが上の様子を見てきてくれって!!」
「はぁ!?今か!?無理や!この場を離れられん!!」
谷さんは自分に頼まれたと勘違いしたようだった。
そりゃそうだ。近藤さんが刀も使えない、しかもか弱くて可愛い私にそんなことを頼むはずがないゲフン!ちょっとこの言い訳には無理があったか。
でもこれはチャンス!!これを逆手にとって、もうこの場を振りきるしかない!!
「そうですよね、無理ですよね!わかりました!」
「局長にすまんと伝えてくれ!」
「はい!あの、谷さん一人でここを守ってるんですか?」
「そうや!猫の手も借りたいくらいや!それより嬢ちゃん、」
ここは危ないさかい、はよ外に逃げ!!
槍を構えながらそう言った谷さんの一瞬の隙をつき、奥に見えた梯子のような階段に向かって走り出す。どこから敵が飛び出してくるかわからない。
それよりも総司くんが倒れていたら…
そればかりが私の頭の中を占め、不思議と恐怖はなかった。
「おいっ!!!嬢ちゃん!!!!」
谷さんの怒鳴り声が背中を追いかけてきたが、一人で守ってるという谷さんは持ち場を離れられない。絶対に追いかけてはこないだろうという自信があった。
現に、谷さんはずっと怒鳴ってはいたけど追いかけてはこなかったし、そして私は運良く敵とも遭遇することなく、階段を駆け上ることに成功したのだった。
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