壬生狼と過ごした2217日
□★誇り高き武士というもの
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静まり返った部屋の中、灰がはらはらと舞い落ちる。霞む視界にポタポタと畳に滴り落ちる真っ赤な血を捉えた。それは驚くほど鮮やかで。灰と混ざり合いながらも独特のあの錆びついたような臭いが鼻をついた。
ああ…私、斬られちゃった…
…でもよかった。最後に総司くんを守ることができて…
よかった!仲間を守ることができて……!
熱が走った左肩に眉を潜めながらも、私ってばやってやったよ…!と満足感でいっぱいだった。
徐々に開け行く視界。刀を振り抜き、私を斬りつけた浪士の姿がハッキリと浮かび上がる。
その姿を目に捕らえた瞬間。
私は自分の目を疑った。
「………え?」
…畳を血で濡らしたのは私じゃなかった。
完全に開けた私の視界に飛び込んできたのは、背後から私のすぐ脇を真っ直ぐに伸びた鋭い光を放つ"ソレ"。
"ソレ"は寸分の狂いもなく浪士を貫き、そしてその姿を真っ赤に染めていた。
「ぐ…!お…、きた……」
堰を切ったように血が刀を伝い溢れ出す。顔を歪めながら、まるでネジが切れた人形のように膝から崩れ落ちる浪士。刀は肺まで達しているのか、口から吐かれる浅い呼吸と共にヒュー、ヒューと嫌な音が聞こえる。その音は今まさに浪士の命が燃え尽きる事を知らせているようだった。
握りしめた拳か小さく震える。
目の前の光景に足がすくんだのもある。けれどそれとは他に、ある疑問が私の頭の中を支配していた。
……な、んで?
斬られたのは……浪士。
…じゃあ私は?斬られた、はずだ。だって痛みが…
燃えるような熱が走った左肩にゆっくりと震える手を伸ばす。着ていた浴衣はやはり肩から胸元にかけてスッパリと斬られている。
だけど…
だけど血が出ていない。それどころか身体には斬られた傷すらない。
確かに私の左肩には眉を潜めるほどの熱が走った。錯覚ではない。確かに斬られたのだ。
なのに…傷がない。
これはいったいどういうこと…?
「逃げ、ろ…」
「!!」
呆然と立ちすくむ私の背中に、ドサリと重みがのし掛かる。ハッと振り返れば、浪士を貫いた刀を握りしめたままの総司くんが真っ白な顔をして倒れこんでいた。
「総司くん!!?」
なんで!?どうして総司くんが!?
もしかして総司くんも斬られた…!?
気が遠くなりそうなのを必死でこらえ、倒れこむ総司くんの顔や身体を
支えながらケガがないか確認する。
…総司くんにも傷はない。
じゃあなんで…?
そう思い、首の後ろを支えた時、ふとあることに気がついた。
総司くんの身体が燃えるように熱い。それに異常なほど大量な汗をかいている。
…部屋の中は蒸し暑く、きっと40度近い。重い日本刀に決して軽装とは言えない羽織袴姿。身体の水分なんてあっという間に汗で流れ出、しかも気持ちの高ぶりと興奮ときたもんだ。
これはもしかしなくても……
熱中症…!!
…よかった!斬られたんじゃなかった!
なんてホッとしたのも束の間。
「ゴボッ…!!」という濁った咳の音に、まだ目の前の浪士の命は燃え尽きていないことに気付く。慌てて前を向けば、膝を折った男からはおびただしい程の血が流れてはいたが、眼にはまだ鋭さが宿っていた。
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