壬生狼と過ごした2217日

□☆着流しの君との大きな幸せ
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最近屯所の中がバタバタと慌ただしい。どうやら巡察も強化しているみたいで、皆朝から屯所を飛び出していく。それに山崎くんを含む監察方の姿なんかはここ数日まったく見かけなくなっていた。
池田屋事件の余波なのか。それとも近々また大きな事件でも起こるのか。ハッキリとしたことはわからなかったが、きっとまた時代が動く。そんなことが容易に想像できた。
…まぁ私は池田屋事件に首を突っ込んだからと言って、じゃあ剣の稽古もしてみるか!なんてことにはもちろんならなく、ましてや今の市中の動きを教えてもらえるわけでもなく、平々凡々、いわゆる暇な毎日を送っているわけなんだけど。
歳さんに至っては日中姿を見ることもなく夜ももちろん別室で、久しくイチャコラなんてしていない。
しかしあれだ。ここまで放っておかれるのもちょっと寂しい気もするんだけどな。ま、仕方ない。

さて、今日はどうしよう。もう洗濯物も終わっちゃったし、珍しく掃除もしちゃったし。しかも何の予定もないのにばっちり化粧までしちゃったしね!
暇なんだよォォォ!なんて、忙しい皆にそんなこと言ったら殺意を向けられそうだから大人しくしてるけど。さて、本当にどうしよう。

そんなことを考え、もんもんとしながらうーんと伸びをする私の背中にふと声がかけられた。


「おい」


その見知った声にまさかと振り向けば、やはりそこには出かけていると思っていた歳さんの姿。しかも珍しく着流しなんぞ着ている。やだん、マイダーリンてばイケメン…じゃなくて。


「え?なんで?なんで屯所にいるんです?」

「いちゃわりィかよ」


一瞬ムスッとした歳さんに慌てて「だって最近忙しそうだったし」と言えば、男はふいに妖艶な笑みを浮かべ「寂しかったか」なとどほざきやがった。
…ふむ。どんなに忙しくても根拠のない自信家さんは健在のようだ。


「ああそうですね、寂しかったですね」


半笑い、そして棒読みでそう答えれば男は「素直じゃねぇな」と私の頭の上にポンと手を置いた。
…うん、マイダーリンの自信家は見習いたいものがある。


「…で?今日は着流しなんか着ちゃってどうしたんですか?」

「出掛けるぞ。支度しろ」

「は?出掛けるってどこに…」

「………///」


私の問いに答えず、なぜか視線を泳がせた歳さんの頬は少し赤い。

……え?なにこれ。
え、え、もしかしてこの感じ。なに?なになになに?もしかしてデートのお誘いってやつですか!?嘘、嘘、マジ?マジですか!?


「歳さん、…逢引き、ってことですか?」

「うるせぇ////!早く支度しろ////!」

「ねぇ、逢引きってこと??」


しつこくそう問い掛ければ痺れを切らしたのか、男は真っ赤な顔で「門にいるぞ////!」と怒鳴り、スタコラさっさとその場をあとにしてしまった。
呆気に取られた残される私。でもジワジワと嬉しさが込み上げてきた。
歳さんからのデートのお誘い。こんなあらたまったデートのお誘いはもしかしなくても初めてのことだ。
それにしても、いったいどういう風の吹き回しなのかしら。もしかして明日は槍が降るかもしれない。

なんて思いつつも、久々のデートに素直に嬉しかった私は、鼻歌を歌い、それはもうスキップをしているような身のこなしで歳さんの待つ門まで駆け出したのである。

ああ、私ってばなんて可愛い乙女。




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