壬生狼と過ごした2217日
□それぞれの夜は更けていく
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「お前……、どこから来たんだ?」
その警戒を含めた言い方と、ポンと置かれた風呂敷の包みに、高杉さんが何を言いたいのか、何を聞きたいのかがすぐにわかった。
この風呂敷の中身は私が元の時代で使っていたバックだ。もちろんその中にはタイムスリップしてきた時に持っていた荷物、すべてが入っている。
そしてきっと…高杉さんはその中身を見たんだと思う。
私が口を開くのをじっと待っている高杉さん。
彼は…
直感だけど、彼はきっと私の言うことを信じてくれる。
そして彼自身も人として信じられる人だと思う。
…多少…いや、だいぶ破天荒なところがあるけどね。
きっと高杉さんになら話しても大丈夫。
そう思った私は、未来の日本から来たこと。今まではある所にお世話になっていたこと。そしてなぜ家出に至ったか、その経緯を少しフェイクを入れながらもう一度話しはじめた。
その間、高杉さんは私の話を疑うことなく、時折そうかと頷きながら真剣な眼差しで聞いてくれていたのであった。
***
すべてを話し終えれば、高杉さんは顎に手を当てて、何か思案しているようだった。
そしてしばしの沈黙のあと。
「面白い!面白いぞお前!!」と、豪快に笑いだした。
「エゲレスあたりの間者かとも思ったが…まさか未来から来たとはな!実に面白い!!」
ええと、私にとっちゃ全然面白いことじゃないんだけどね。
でも信じてくれたみたいでよかった。
歳さんなんていくら言っても最初は全然信じてくれなかったもんね。結局、芹沢さんと総司くんに助けられたような感じで屯所に置いてもらえることになったんだっけ。確か総司くんがブラとパンツを無垢な心で手にして……
…ってなに懐かしんでるんだ私は。
もう忘れよう。彼等のことは。
…忘れよう。歳さんのことは。
「だとすると、これは未来の物なのか!」
感傷に浸る私を無視するように、破天荒高杉さんが目の前の荷物をあさりだす。
ちょ、この人は躊躇とか遠慮っていう言葉を知らないのか!
慌てて「そ、そうです」と一緒に荷物を覗きこめば、高杉さんはケータイを手にしていた。
「なんだ!?この小さな箱は!」
「それはケータイと言って遠くにいる人ともそれで話せるんですよ」
「ほう!!すごいなそりゃ!!」
興味津々にケータイを開く高杉さん。途端に「ん?これは…」と顔がしかめっ面になる。
あ…、確かそれは充電がもう…
「すいません。それはもう充電がなくて」
真っ暗な画面を想像し、高杉さんの持つケータイを覗くと、なんと電源が入っている。
そして画面には宴の時、酔ったノリで撮った歳さんとのツーショットが。
ベッタリとくっつく私に、眉間の皺が3倍増しになりながらも真っ赤な顔の歳さん。
確かまわりのみんなにもすげーひやかされて…
そんなのお構いなしに頬にちゅっちゅっするフリをすれば、すげー勢いでゲンコツが降ってきたんだっけ。あまりにもムカついたからみんなの前でそのまま無理矢理頬にちゅーしたら、その夜はさんざん啼かせ…じゃなくて泣かせられたな、説教で。
…じゃなくて!!!
慌ててケータイを奪い返す。
……まずい。非常にまずい。
歳さんとの写メを高杉さんに見られた。
私が新選組にお世話になってたこと、バレちゃったかもしれない。
恐る恐る高杉さんの方を見る。
…が、当の高杉さんはニヤリとした笑いを浮かべているだけ…
「今のは…、この時代のお前の男か?」
「えっと…」
「だが、そいつよりも俺の方がいい男だな!!どうだ、俺に乗りかえるか!?」
ハハハッと笑う高杉さん。
あ、れ…?
もしかしてこの写メが歳さんだってバレてない…?
……高杉さんは長州の人。
もしかしたら歳さんの顔はもちろん、新選組の人達の顔を知らないのかもしれない。
だとしたら好都合。
「あ、はは〜。考えておきます〜」
そう言って軽く流せば、高杉さんは再び私の荷物をあさりはじめたのであった。
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