壬生狼と過ごした2217日

□その心中は何を思う
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「わ…すっご…」

「煮売りやら焼き売り、餅売りに色々な物売りが出ているでしょう?」


道中、この時代のお正月について山南さんから講義を受け、拓けた市中に出て驚いた。
いつもはスッキリとしている京の町中だが、今日はどこもかしこも振り売りや立ち売りの行商人だらけ。売り手やら買い手やらでごった返し、町全体が活気に満ち溢れていた。
そこらじゅうからお腹がすくいい匂いがしてきて、こりゃ本当に酒が呑みたくなっちまうぜ!
キョロキョロして鼻をクンクンさせてる私は、本当に色気より食い気ですがなにか?

そんな私を察したのか、山南さんは「今夜の肴にしましょうか」と、豆腐売りからがんもどきを買ってくれた。
ああ、なにこの気のきいた優しさ!どこぞの副長様に山南さんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ!


「ありがとうございます!」

「いえいえ。ではさっそく野菜売りを探しましょうか」

「はい!」


この時代のお正月は未来のたかがニューイヤーとは次元が違う。
一年で一番大切な行事、とされている。
本来、お正月というのは歳神様へ捧げる御祝い行事。門松やらしめ縄、鏡餅もすべて歳神様を心から歓迎する準備なんだそうだ。
それともう一つ。
この時代は誕生日を祝う風習がない。それは正月に皆一斉に一つ歳をとるとされているからなんだって。
それも踏まえて正月は盛大に御祝いするのだと、先ほど山南先生にご教授いただきましたです。

だから煤払いが始まる今日、祝い始めの13日からは、町中も行商で賑わい活気が溢れるんだそう。私のような酒好きは煤払いと同時進行しながらグイグイ盃を煽るらしく、正月前でも煮売りや焼き売りは繁盛するらしい。今もこうして町中を見渡すと酔っ払いが多いみたいだ。でも不思議と酔っ払い同士の喧嘩はほとんどないらしい。皆、歳神様への礼儀はわきまえているんだろう。
「なんだかお祭りのようですね」と言えば「でも江戸の町中はもっと賑わうんですよ」と山南さんが教えてくれた。
そんなこと言われちゃ、いつか江戸の町中も見てみたい気がする私は好奇心旺盛なんでしょうか。
でも本当、江戸には行ってみたい。
……皆のすべての始まりは江戸、なんだもんね。そんな故郷を見てみたいと思うのが正直なところだ。


「あ!山南さん!あれ、野菜売りじゃないですか?」

「ん?どれどれ?」


私の指差す先には野菜の入った沢山の籠を並べ、「野菜や〜、野菜〜!」と客寄せをしている行商人の姿。とても威勢のいいオッチャンだ。


「そうみたいですね。では行ってみましょう!」

「はい!」


お目当ての野菜売りを見つけた私達は足早にそこへと向かったのだった。



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